連勝記録がストップしても神対応。吉田沙保里はいつも誠実だった (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • photo by AFLO

 吉田沙保里のイメージを聞くと、「一度も負けることなく、連勝街道を驀進した霊長類最強女子」と思われている方も多いだろう。だが、国別対抗団体戦のワールドカップで2度、黒星を喫している。それゆえ"個人戦"との限定だが、吉田は連勝記録を誇ることなく、「負けを知って、また強くなった」と自身を振り返っている。

「レスリング協会やマスコミの方々が、『敗れたのはいずれも"団体戦"であり、"個人戦"では連勝が続いているよ』と言ってくれます。それはありがたいことですし、同時に『そういう記録があるなら、さらに伸ばせるようにがんばろう』と戦ってきました。ですが、吉田沙保里は勝ち続けることで成長したのではなく、負けて強くなってきました」

 2008年、オリンピックイヤーの1月に行なわれたワールドカップのアメリカ戦。吉田はまったくノーマークだったマルシー・バンデュセンにタックル返しを食らって敗戦を喫す。連勝記録が119で途切れるとともに、13歳から外国人選手と戦って一度も負けたことがないという記録も途絶えてしまった。

 マットから降りると泣きじゃくり、伊調千春に抱えられて吉田は控室に消えた。だが、1時間ほどすると、涙で真っ赤に腫らした顔でマスコミの前に姿を現し、消えそうな声で話した。

「お待たせしてすみません。(微妙な判定だったが)自分が弱いから負けました」

 何もコメントを残さず、そのまま宿舎へ引き上げても、文句を言う者はいなかっただろう。それでも、吉田は責任を果たした。私はこのときの吉田の誠実さとともに、後に彼女自身から教えてもらった国際電話での父・栄勝の言葉も忘れられない。

「悔しいだろう。だったら、その悔しさをそのまま持ってこい。そして、一生懸命、練習せい。今日悔しくても、明日忘れる馬鹿もいる。それをやっていたら、いつまでも勝てないよ」

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