勝ち負けに執着しなかった伊調馨が、
「勝ち」にやりがいを見出した

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 日本中が待ちに待った、2年2カ月ぶりの復帰戦――。オリンピック4連覇の伊調馨は全日本女子オープン選手権に出場し、3試合すべてフォール勝ちを収めて優勝を飾った。

 この優勝により、伊調は12月に開催される天皇杯全日本選手権への出場権を獲得。だが、試合後の記者会見では、「東京オリンピックを目指すとは言えない」とキッパリと語った。「環境をより整えていかないといけない」「100%自信を持てる環境になって少しずつ(調子が)上がってきたと思えたら、東京オリンピックも見えてくるかな」。レスリングの絶対女王は、何度も"環境"という言葉を口にした。

2年2カ月ぶりに復帰した伊調馨が現在の心境を語ってくれた2年2カ月ぶりに復帰した伊調馨が現在の心境を語ってくれた 伊調は現在、日体大を拠点として日々練習に励んでいる。所属するALSOKでは今年1月に広報部へと異動したが、試合出場が決まってからは練習に集中させてもらっている。

 場所と時間は確保した。残るは、信頼できる指導者だ。伊調は「東京オリンピックを目指すのであれば、ロンドン前からリオデジャネイロまでのように、田南部力コーチの存在が必要不可欠」と訴える。

 北京オリンピック後、伊調が東京に拠点を移したとき、当時の佐藤満男子強化委員長に誘ってもらった男子の代表合宿で初めて指導してもらったのが、田南部だった。

「軽量級担当で、一緒にアテネ(オリンピック)に出場して顔見知りだったので、スパーリングをお願いしたのが田南部コーチでした。レスリングスタイルは、両足タックル、片足タックルの組み合わせで、基本に忠実。教科書みたいでわかりやすい。自分に合っていたというか、マネしやすいと思いました。

 言葉がうまくて、教えるのも上手。知らないことばかりで、『なるほどなぁ!』の連続でした。何を聞いてもすぐに教えてくれて、わからないことがない。引き出しが多い。そこまでのコーチは少ないですからね」

 北京オリンピックが終わり、一度は引退を考えた伊調だったが、田南部と出会い、「レスリングの本質的なもの、奥深さを知って、おもしろい、またやりたい、もっと覚えたい」と変わっていった。

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