パワハラ問題を乗り越え、伊調馨が復帰。前人未踏の道へ腹をくくった (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

「状態はまずまずですが、体力面は2年前と比べてまだ7割。ただ、技のキレは抜群。さすが、オリンピック4連覇の選手。問題は実戦の感覚を取り戻すこと。それが大事」

 ALSOK大橋正教監督は試合前、伊調についてこう語った。そして、「課題はもうひとつある」とつけ加えた。それは、伊調が休養している間に変更された新階級と当日計量のことだ。

「リオのときは58キロ級で、今回は57キロ級。わずか1キロの違いと思われるかもしれませんが、初めての階級なのでその差は大きい。それと、当日計量というのも馨にとっては未知の世界。試合当日の朝に計量したのち、増量とまではいかなくても第1試合までにどこまで減量のリカバリーができるか。こればかりは経験してみないことにはわかりませんから、大会に出場してやってみるしかない」

 大橋監督は心配そうに語っていたが、伊調もそれに対しては慎重だった。

 試合前日の午後に現地入りした伊調は、夕方に試合会場を訪れて用意されていた体重計に乗り、計画どおり400gオーバーを確認した。その後、トイレに行って減った分を計算し、夕飯におにぎり1個と水分を摂り、500gオーバーで就寝。試合当日は体重計に乗る前にお茶を口に含む余裕を見せ、無事に計量をパスした。

 計量から2時間20分後、伊調は島中斐子(同志社大)との第5試合に登場する。開始10秒、片足タックルを鮮やかに決めると、ローリング、アンクルホールドを連発。わずか38秒でフォール勝ちを飾った。

 続く準決勝は、9月の世界ジュニア選手権で優勝を果たし、勢いに乗る澤葉菜子(至学館大)との対戦。試合開始早々、伊調はバックに回られて2点を献上し、周囲はヒヤッとする。しかし、伊調はすぐさま反撃して同点に追いつくと、第2ピリオドでは伝家の宝刀アンクルホールドを炸裂。エビ固めを決めてそのままフォール勝ちし、今大会2位までに与えられる全日本選手権への出場権を掴み取った。

2 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る