女子レスリング「金メダル0」で
王国崩壊の危機。東京五輪に間に合うか

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 こうして見てくると、2004年アテネオリンピックは2年前の釜山アジア大会で活躍した浜口、吉田、伊調馨が優勝候補。2008年北京オリンピックは2年前のドーハ・アジア大会で伊調千春も優勝し、4名全員が注目選手。しかも、豊富な国際経験を持ち、それぞれが自立していた。2012年ロンドンオリンピックも伊調千春から同世代の小原日登美に替わったものの、選手層の厚さは変わらず「女子レスリング王国」は揺るがなかった。

 一方、女子のオリンピック実施階級が4から6へ増えた2016年リオデジャネイロオリンピックは、登坂や渡利のほかに、アジア大会未経験の土性沙羅(どしょう・さら/東新住建)、川井梨紗子(ジャパンビバレッジ)ら若手が出場したが、日本女子チームには世界に誇る吉田沙保里&伊調馨という2枚看板がいた。

 だが、今回のアジア大会で露呈した日本女子の最大の弱点は、「絶対女王」がいないことである。

 吉田はリオデジャネイロオリンピック後、日本代表コーチに就任。選手としての活動はなく、いまだタレント業を継続中だ。もちろん、アジア大会にも出場していない。

 それでも、吉田の2歳年下の伊調がいれば、若いチームの柱となっただろう。それを阻止したのが、あのパワハラである。

 もちろん、レスリングは個人競技だ。だが、チームが一丸となって目標に向かって突き進んでこそ、勝ち続けることができる。日本女子は、今までそうやってきた。

 伊調のもとで育った選手たちがリーダーを引き継ぎ、4年後のアジア大会でチームを引っ張って6年後のパリオリンピックへとつなげていけば、それ以降も王国の歴史は続いたはずだった。

 しかし、リオデジャネイロオリンピックから2年――吉田と伊調が抜け、金メダリストの登坂は国内予選で敗れ、土性は3月のワールドカップで痛めた肩の手術を行ない、現在リハビリ中の身である。

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