田口良一を支えた怪物との激戦。「相手は井上尚弥より強いはずがない」 (3ページ目)

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • 写真●山口裕朗 photo by Yamaguchi Hiroaki

──その試合は、日本タイトルを手にしたばかりの田口選手が対戦を希望したと聞いています。当時、誰もが戦うことを避けた井上選手との試合を望んだ理由は? 

「2012年にアマチュアだった井上くんとスパーリングをしたんですが、ダウンを取られて、4ラウンドやる予定が3ラウンドで終わってしまったんです。すごい高校生がいるという話は聞いていたんですが、あそこまで強いとは思っていなかった。悔しくて、泣いて......。とにかくショックでした。
 
 その2、3カ月前には、日本タイトル初挑戦(vs黒田雅之/川崎新田)がドローになって王者になれず、その少し後のスパーで井上くんにボロボロにやられた。ただ、しっかり鍛えて状態を上げれば勝機はあるという実感もあって......。その翌年に日本タイトルを取ったときには井上くんもランキング上位でしたから、会長に『井上くんとやりたい』と伝えました」

──田口選手が感じた、井上選手のつけ入るスキはどこだったんでしょうか? 

「左フックを打つときとか、ところどころ(ガードが)開く場面があったので、苦手なスパーではなく、コンディションをしっかり整えた本番なら勝てるんじゃないかと。ただ、実際の試合ではやられてしまったんですけどね」

──0-3の判定負けではありましたが、94-97をつけたジャッジもいましたし、井上選手が最も苦戦した試合のようにも思います。プロのリングで対戦した印象は?

「どこをとってもハイレベルで、やっぱり強かったです。でも、僕のコンディションもよくて試合の進行が早く感じましたね。『あ、もう8ラウンドか』といった感じで。コンディションが悪いと、特に最初の1ラウンドは5分くらいに感じたりするのが、その試合はあっという間に時間が過ぎていきました。

 井上くんのパワーはすごかったですけど、フィジカルで押し負けはしませんでしたし、気持ちも充実していました。きつい試合だったのはもちろんですが、その中に楽しさがあったのを覚えています」

──手を合わせた田口選手から見る、井上選手の"他の選手とのパワーの差"はどこでしょうか。

「彼のパンチは『壊すパンチ』なんですよ。スパーでやったときも、あんなに衝撃があるパンチはもらったことがなかったのでビックリしました。パワーだけじゃなくて(パンチを見切る)目もいいし、すべての面ですごい。日本ボクシング史上でも最高の選手になれる可能性があると思います」

──3階級制覇を狙う、今の井上選手の印象は? 

「僕と試合をしたときとは比べものにならないくらい強くなっています。最高にすごくて、超強い。『はるか先にいっちゃったな』という感じです。彼がそれだけ成長したということもありますし、自分と違う階級の選手になってしまったこともありますね。まだライトフライ級にいたらすごく意識していたんでしょうけど、井上くんはバンタム級に上がりましたから」

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