村田諒太、先があるから「泣いてません」。
視線の先は最強ゴロフキン

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 村田はガードを高く上げ、両ひじの隙間から不敵な笑みを浮かべ前進を続ける。前回の対戦で村田は序盤の3ラウンド、ほとんど手を出していない。細かく何度も放つジャブに、早くも村田の覚悟がにじんだ。気迫に圧倒されたか、クリンチを多用するエンダム。2ラウンド、前進を止めない村田の右フックがヒットし、早くも流れは村田に傾く。

 4ラウンド、KOの予感。村田のボディーがヒットし、エンダムがふらつく。5ラウンド、今度は村田の右ストレートがアゴを捕らえ、ふたたびエンダムはぐらついた。6ラウンド、右ストレートが顔面にクリーンヒットし、エンダムの腰が落ちる。7ラウンド、村田の連打にエンダムは防戦一方となっていく。

 8ラウンドのゴング直前、「続ければ大ケガになりかねない」とエンダム陣営から棄権の申し出があり、村田のTKO勝ちが決まった。

 WBA世界ミドル級新王者になった村田は、感情の赴(おもむ)くまま両腕を高く突き上げる。その表情は、間違いなく泣いていた。

 その泣き顔に、偉大な「カンムリワシ」具志堅用高の涙を思い出す。

 この日のセミファイナルは、比嘉大吾(白井・具志堅スポーツ)の初防衛戦だった。比嘉は今年5月、村田がエンダムに敗北を喫した日、WBCの世界チャンピオンになったフライ級の新星だ。ジム開設から22年、比嘉で世界を獲れなければ「ジムをたたむことまで考えた」と語る具志堅会長は、初めての世界王者誕生に、リング上で涙を隠さなかった。

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