村田諒太、先があるから「泣いてません」。
視線の先は最強ゴロフキン

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 台風21号の接近に伴い、雨脚が強まる。しかし、レフェリーにその腕を高く掲げられ、喜びのあまりクシャクシャに顔を歪める村田諒太と、それを見つめる観客の胸の内は、きっと晴れ渡っていた。

日本人ふたり目の世界ミドル級王者に輝いた村田諒太日本人ふたり目の世界ミドル級王者に輝いた村田諒太 試合開始のゴング直前、両国国技館の雰囲気は、どこか異常だった。

 殺気立つ詰めかけた観客。5ヵ月前の不可解な判定でアッサン・エンダム(フランス)に奪われたベルトを、村田が奪い返す瞬間を見るために会場を訪れたことは明らかだった。

 ただ、村田とエンダムを凝視する観客の視線は、コロッセウムで戦うグラディエーターたちを見つめる視線に似ているようにも思えた。生きて会場から出られるのは、ひとりだけ。試合終了のゴングが鳴ったとき、立っているのはどちらか一方だという予感と期待で国技館は膨れ上がっていた。

 村田自身も試合前、「やっぱり倒したいですね、正直」と語っている。

 その発言に、ある世界チャンピオンの言葉を思い出す。

「倒す距離に踏み込むというのは、倒される距離に踏み込むということ。勇気と覚悟が問われる」

 この日、会場に詰めかけた8500人は、新王者誕生の瞬間と、村田諒太の勇気と覚悟を見届けに来ていた。

 試合開始のゴングが鳴る。

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