リングを去る心優しき王者・内山高志。笑ってさよなら、涙はいらない (8ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 あれだけ焦がれた海外でのビッグマッチに関しても同じだ。

 拳を交えたことのある三浦隆司(帝拳)は、海外であれだけ名を馳せた。井上尚弥(大橋)は、今まさに海の向こうへ羽ばたこうとしている。

 内山高志が海外のリングで躍動する姿を誰よりも夢見たのは、ファンではなく内山自身だ。

 言いたいことは山ほどあったはず。それでも内山は去りゆく者として、すべてを飲み込み、29日の引退会見でこう言った。

「海外での試合は、僕自身やりたかったですけど、ケガも多かったですし、タイミングが合わなかった。それについての後悔はないです」

 この日の会見、「ノックアウト・ダイナマイト」の現役最後の置き土産は、キャリアKO率74%の種明かしだったと思っている。

 対戦相手への敬意があったのだろう。現役時は何度聞いても、「KOは偶然の産物。狙ってはいない」と語り続けた。しかしこの日の会見で、いたずら小僧のような笑みを浮かべながら、内山は長年の秘密を明かした。

「いつも試合前にはKOは意識してないと言っていたが、正直KOしないと面白くない。KOすることだけを考え、練習をやっていました。少しはお客さんに面白い試合ができたんじゃないでしょうか」

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