リングを去る心優しき王者・内山高志。笑ってさよなら、涙はいらない (5ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

 そして、一切の妥協を排除し、練習に励んだ。たとえば、1日に800メートルのダッシュを12本といった練習。そこまで自分を追い込み、掴み取った栄光であり、守った約束だった。

 無敗のまま東洋太平洋タイトルを獲得した内山は、2010年1月、プロ14戦目でWBA世界スーパーフェザー級王者のフアン・カルロス・サルガド(メキシコ)に挑戦し、12回にTKOで世界のベルトを奪取している。

「親父は生で試合を見ることなく亡くなったけれど、約束を果たせました」

 内山が引退を発表した会見から1時間後――。後楽園ホールでは、この日も熱戦が繰り広げられていた。4回戦であろうと、タイトルマッチであろうと、限界を超え、なお勝ちたいと挑むボクサーの姿は眩(まぶ)しい。この光景が、12年前の内山の胸に、もう一度火を灯(とも)したのだろう。

 試合の合間、内山と同じワタナベジムのふたりの世界チャンピオンがリングに上がった。先日6度目の防衛に成功したWBA世界ライトフライ級王者の田口良一と、7月23日にIBF世界ミニマム級王者となった京口紘人。もちろん、内山ほどの存在感はまだない。それでもきっと、内山がその拳に込めた想いは、彼らが受け継いでいくはずだ。

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