リングを去る心優しき王者・内山高志。笑ってさよなら、涙はいらない (4ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

「本当に強くなりたいのか?」

 何度も自問すると、いつも答えは一緒だった。

「あいつらよりも、絶対に強くなりたい」

 部員たちが夏休みを謳歌するなか、内山は1日も休まずに練習を続け、文字どおり人の2倍、3倍の練習を積んだ。そして凡人だったボクサーは、ついに序列をひっくり返す。大会で、同じ大学のエース級の先輩を倒し、レギュラーに昇格したのだ。

 大学4年で初めて日本一となり、目標をアテネ五輪出場に定めた内山。しかし、アジア地区最終予選1回戦で敗退し、その夢は潰(つい)える。

 引退を決意した内山だったが、知り合いや後輩の試合を観戦するうちに、その想いは揺らいだ。

「なんか輝いて見えたんですよね」

 内山は引退を撤回し、2005年にプロ転向を決める。最後まで反対され、最後は喧嘩別れとなったものの、父とはそのときにこう約束した。

「絶対に世界チャンピオンになるから」

 もちろん、確信はなかった。だから、こう決めた。

「世界チャンピオンになれるかどうかはわからない。でも、世界チャンピオンになるために妥協しないことは、自分で決められる」

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