長谷川穂積、引退から3ヵ月後の心境。「現役じゃないけど一生ボクサー」 (5ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • 大村克巳●撮影 photo by Ohmura Katsumi

 7ラウンド、長谷川は壮絶なTKO負けを喫する。

 ベルトに挑戦できる日は、次はいつになるかわからない。それどころか、もう二度とチャンスは来ないかもしれない。それでも、マルチネスに負けたまま辞めることはできなかった。

「これはちゃうわ。もう1回だけ、もう1回だけでいいから世界戦をさせてほしい」

 ふたたび、耐える日々は続く。

 2015年、長谷川は2試合のノンタイトル戦を行ない、どちらも判定勝ちしている。しかし、内容はお世辞にも褒められたものではなかった。特に12月11日のカルロス・ルイス(メキシコ)との試合では、3ラウンドと5ラウンドにダウンを奪われ、セコンドがタオルを投げ込もうとするシーンすらあった。そして試合内容以上に長谷川の心を傷つけたのは、観客の歓声だった。

「危ないと思ったんでしょうね。僕がクリンチをするたびに、会場から拍手と歓声が上がったんです。あれには、情けなさや、悔しさがありましたね......。

 試合後、知人に相談したんです。『潮時なのかな?』と。知人は、『まだ続けたいんだろ? クリンチだろうがなんだろうが、歓声が上がったんだろ? それを見て喜んでいるお客さんがいたってことだろ? だったら、いいじゃないか。それはプロとして成り立っているってことだろ』と。たしかにそうだな。まだ俺のボクシングを見たいと思ってくれている人がいるってことだと。それが、現役を続ける支えのひとつになりましたね」

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