イチ、ニ、サンと軽量級の大本命へ。柔道・阿部一二三の壮大なプラン (2ページ目)

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • photo by AFLO SPORT

 今年4月の選抜体重別選手権では、海老沼を計三度投げて、圧勝した。かと思えば、11月の講道館杯では、思うように足を踏み出すことができず、攻撃柔道が鳴りを潜めて準々決勝、敗者復活戦と連敗した。勝つ時には豪快に圧勝するが、負ける時はまるで別人のように、あっさり負けてしまう印象がある。そのことを阿部に問うと、彼自身も認めた。

「後手に回ったら、自分の良さが消えてしまう。常に前に出て、相手に圧をかけることができれば、今日みたいに勝つことができる。この1年、組み手を見直してきた。その成果は少しずつ出てきていると思います」

 阿部の柔道は組み際にこそ強さを発揮する。引き手と釣り手を持ったその刹那(せつな)、技を繰り出していくのだ。体勢が不十分の相手は、反応することもままならない。瞬発力と、道着を掴んだら簡単には離さない把持力(はじりょく)が阿部の武器であり、それが一本を呼び込む技のバリエーションにつながっている。

 グランドスラム決勝の橋口戦では、開始早々に相手の両袖を掴んですぐさま、袖釣り込み腰を仕掛け、橋口を一回転させた。勢い余って、「有効」のポイントにとどまったが、「一本」となった背負い落も、組み際だった。

「大学に進学して、練習環境が変わって、先生方からも組み際を大事にしろと言われてきました。意識して、組み際に技を仕掛けるようにしています」

 五輪代表の海老沼にも今年勝利している阿部は、もはや66キロ級のホープではなく、東京五輪に向けた大本命だ。

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