「あきらめない男」が殴り勝って3階級制覇。その名は、長谷川穂積 (5ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by Nikkan sports/AFLO

 試合直後に行なわれた控え室での囲み取材。興奮しているのは報道陣だった。そこで初めて、「勝ったから言えるんですが」と、長谷川の口から、8月に左親指を脱臼骨折して手術し、翌日から座薬を入れて右手だけで練習を再開したこと。痛みが和らいだのは、試合2週間前であったことを明かされた。そして、山中の入場曲が流れると、「申し訳ありませんが、試合が見たいので」と、今後の進退についての明言を避け、囲みは打ち切られた。

 山中の試合後、長谷川の控え室にはひっきりなしに友人や知人、関係者が祝福に訪れた。一瞬の合間に、長谷川に、ひとつだけ聞いた。

「もう思い描くボクシングができないと、あきらめそうになった瞬間はなかったですか?」

 知人たちに見せていた笑顔が、一瞬で真顔になった。

「それはないです。1回もないです」

 そして、続けた。

「復帰後の2試合があったから、今日の試合ができた。左指のケガがあったから、右のトレーニングを余計に積め、今日の試合でルイスの左フックをガードできた。あきらめたことはなかったし、今日までの日々で、無駄だったことも、ひとつもなかった」

 言い終えると笑顔に戻り、長谷川はごった返す控え室で、友人らの子どもたちを集め、記念写真を撮り始めた。

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