「あきらめない男」が殴り勝って3階級制覇。その名は、長谷川穂積 (3ページ目)

  • 水野光博●取材・文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by Nikkan sports/AFLO

 長谷川、上々の出だし。しかし、偶然のバッティングによって減点。長谷川のボディストレートが小気味よく決まるが、時折見せるルイスの左フックが危険な香りを放つ。

 4R終了後の途中採点は、減点の影響もあり、ルイスが2-1でリード。5R、ロープを背負いひやりとするシーンも、長谷川が右を確実に当て、ルイスが鼻血を流す。7R、今度はルイスがバッティングにより減点。長谷川は左目尻から出血する。8R終了後の途中採点では、2-1で長谷川が逆転した。

 しかし9R、長谷川はルイスの強烈な左アッパーを被弾し、ぐらつく。ロープ際まで追い込まれ、会場には悲鳴がこだました。ルイスの連打が続く。だが、この絶体絶命の状況下、長谷川はガードを解き放ち応酬した。

 その瞬間を、試合後こう語る。

「クリンチを振りほどかれて打ってきた。もう逃げられないな、と。ロープを背負って、勝負をかけようと」

 殴り勝ったのは、長谷川だった。左ストレートを叩き込み、リングの中央まで押し返す。右目が腫れ上がった王者は、10R開始のゴングが鳴っても、コーナーから立ち上がることはできなかった。

 それは、35歳9ヶ月――日本人最年長世界王座奪取の瞬間であり、長谷川が3階級制覇を成し遂げた瞬間だった。だが、どんな偉業達成の瞬間であるよりも、長谷川穂積が愛されるボクサーであることを証明した瞬間だったと言えるのではないだろうか。会場の観客が、これほど勝利に喜びを爆発させた試合を、ほかに知らない。

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