【ボクシング】ライト級・坂本博之が語る「減量時の過酷な食事」 (4ページ目)

  • 水野光博●文 text by Mizuno Mitsuhiro  是枝右恭●撮影 photo by Koreeda Ukyo

 その後、兄弟は児童養護施設で生活することになる。そこで初めて食べた、具だくさんの味噌汁に感動し、「これは何ていう食いものか?」と坂本が聞くと、豚汁だった。ただ、坂本は「ブラジル」と聞き違える。

「友だちの家に呼ばれたとき、『何が食べたい?』って聞かれたんで、『ブラジル!』って言ったら、『それ、豚汁のことか!?』って笑われました(笑)」

 ではなぜ、飽食の時代に空腹の恐怖を味わった少年は、自らボクシングというハングリーなスポーツに身を投じたのか?

「施設のテレビで偶然、ボクシングの試合がやっていたのを見たんです。チャンピオンが大歓声に包まれながら、ベルトを腰に巻き、ガウンを羽織って花道を歩き、リングに上がる......。その姿に、ものすごく魅了されたんです。光り輝いて見えたんです。『僕も、あっちの世界に行きたい』って」

 月謝が払えないので、ジムには通えない。走り込みはできても、鉄アレイは買えない。ならばと、坂本は重たい石を袋に入れて、筋トレを開始した。

「運命は、自らの手で切り開くもの」

 それが、坂本の信念だった。

 施設での生活より前のこと。ドジョウを獲るために川に入り、弟と挟みうちにしたときだった。獲物がその手から、スルリと逃げた。太陽を見上げ、「降りて来い!」と坂本が叫ぶ。

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