【ボクシング】ライト級・坂本博之が語る「減量時の過酷な食事」

  • 水野光博●文 text by Mizuno Mitsuhiro  是枝右恭●撮影 photo by Koreeda Ukyo

「目玉焼きが乗ったヤツね。ライスに塩をかけて。もう、おいしくて、おいしくて。食べ物がのどを通るのを感じて、『ああ、この感覚、何日ぶりだろう』って......。実際は1週間ぶりなんだけど、食べられない期間ってえらい長く感じる。1日が3倍くらい。だからもう、『3週間くらい飯食ってなかったんじゃないか』って(笑)」

 骨太で筋肉質な坂本は、平常時に73キロほどあった。ライト級のリミットが61.2キロ。つまり、試合決定から試合までの2ヶ月弱で、12キロ弱の減量を強いられる。計量の1週間前までに9キロ落とし、残り3キロ弱を計量日までに絞り込むのが常だった。

 減量が始まると、まるで儀式のように、坂本は冷蔵庫の中身を空にして電源を抜いた。

「食べ物は入ってなくても、氷があったら舐めたくなる。それをやらないようにね」

 減量中、ラッキョウの皮を1枚1枚はがし、口に含んでは吐き出した。食べた気分になり、酸味を感じて出るツバも吐き出せて、一石二鳥だった。すっぱいガムを大量に買い込み、それを噛んでは出るツバを吐き出す日々......。だが、減量終盤になると、ガムを噛んでもツバすら出なくなる。ただひたすら、「早く落ちろ。早く試合の日よ、来い」と願いながら、サウナのなかでガムを噛んだ。そして、最後は完全な絶食。長い散歩をして、1日食べなければ300グラム、2日で500グラム、体重は減った。

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