長いトンネルを抜けたベテランたち。柔道ニッポンへ復活の兆し

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 中村博之●写真 photo by Nakamura Hiroyuki

 それでも気持ちを切らさなかった海老沼が、終了10秒前に背負い投げて技ありを獲得。大勢は決したが、そのまま最後まで腕ひしぎ十字固めを狙い、終了のブザーが鳴った瞬間まで決める執念を見せた。

「高市には2回負けているので挑戦者だと思ってやった。組み手がけんか四つの相手でも背負い投げをたくさんやってきたので、投げたいという気持ちはあったし、逃げてチャンピオンになるより攻めていきたいと思っていたので。今日は勝つことだけを考え、世界選手権も含めて五輪のために走り続けようと思って1回戦からがむしゃらに攻めた。ここで休むのではなく、五輪まで走り続けたいと思う」

 そんな海老沼を井上康生男子監督は「昨年の世界選手権も13年の世界選手権もそうだが、彼は感動を引き起こす柔道をする選手。彼の柔道に打ち込む姿勢は他の選手の見本となるものだと思う。唯一獲り逃している五輪の金に執念を燃やしているが、それを獲得できるように、精一杯サポートしていきたい」と評価した。

 試合後の世界選手権代表選考では、当初は選手総枠9名で2階級まで選手を2名出場させられる枠は全日本選手権終了後に決定する予定だったが、女子の場合は金メダル獲得有力階級であることと、実績もある2選手が決勝まで残ったことを考慮して、48kg級では浅見と近藤の2名を代表に決定した。

 男子の2枠目の決定は持ち越されて66kg級は海老沼ひとりの選考になったが、井上監督は100kg超級か、73kg級より下の軽量級で使うという構想を明らかにしていてGPデュッセルドルフ優勝の高市が入る可能性が残った。また阿部については「16年を見据えて強化していくが、2020年も十分に絡んで来れる選手なので。長期的なプランを立てて強化していくことも重要だと思う」と期待をする。

 ひとまず今回は海老沼が抜け出した状態だが、今後は高市、阿部を含めた三つ巴の戦いが熾烈さを増していくだろう。また女子48kg級の戦いも、世界選手権でどう進展するか目を離せない状況になった。

 こうして切磋琢磨する先には、柔道王国復活が見えてくるはずだ。

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