猪木vsアリ、「世紀の一戦」への過激なる前哨戦 (3ページ目)

  • text by Sportiva

「すべてをかけてやる度胸があるのか?」
猪木が迫るとアリは同意し、勝者が興行収益を総取りする契約書にサインする。
その様子を見ながら、猪木は吐き捨てるように呟いた。
「ペンが震えてら、この野郎」

 さらに、猪木はアリへのプレゼントとして持ってきたというギブスを取り出して挑発。これにはアリも怒り、「今ここでやろう!」と猪木につかみかかろうとするが、ブラッシーらが制止した(勝者が興行収益を総取りする契約は、アリ側の猛抗議により無効になった)。

 6月25日、試合前日の公開計量で緊張感はピークを迎えた。先に計量を終えた猪木をシャドーで挑発するアリ。猪木は微笑を浮かべアリの顔をまっすぐに見ている。

 アリが警告する。
「俺のパンチが当たったら一貫の終わりだぞ。打たれないように気をつけろよ!」

 絡みついてくるアリの腕を振り払う猪木。おもむろにアリの顔の前に人差し指を突き出す。すかさずその腕を叩き落とすと、アリは叫んだ。
「明日会おうぜ! 明日は真剣になってくれよ。俺はお前が嫌いだ!」

 前哨戦では、アリ一流のジョークに会場が笑いに包まれる場面も多かったが、その裏では生き残りをかけた両者の熾烈な駆け引きがあった。試合は15ラウンドを闘い抜いてドロー、「世紀の凡戦」と当時は嘲笑されたが、近年再評価されている。試合に至る過程を見直してみると、この歴史的一戦をより楽しめるのではないだろうか。


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