【ボクシング】減量失敗に王座返上。度重なる愚行に物申す (3ページ目)

  • 原功●文 text by Hara Isao photo by Getty Images

 ところが、21世紀に入ってからの13年間で、実に8例もの王座返上が記録されているのである。徳山昌守(WBCスーパーフライ級)、新井田豊(WBAミニマム級)、亀田興毅(WBAライトフライ級、WBAバンタム級)、ホルヘ・リナレス(WBCフェザー級)、亀田大毅(WBAフライ級)、井岡一翔(WBA、WBCミニマム級)、そして昨年末には、宮崎亮がWBAのミニマム級王座を返上したばかりだ。

 王座返上の理由は、ふたつに大別される。モチベーションの低下や達成感からベルトを返上した例(徳山、新井田)と、前後の階級への転向を前提に王座を返上した例(亀田興、リナレス、亀田大、井岡、宮崎)だ。後者に関しては、次のチャンスが統括団体から優遇的に用意されることが多いため、選手はひとつの王座に固執せずに済むというプラスの事情があることも付記しておきたい。つまり、ビジネスチャンスは失われないのである。

 ただ、理由がなんであれ、猛烈に欲しがっていた玩具に飽き、遊んだあとであっさりと放棄してしまう子どもの姿と重なって見えるのは、私だけだろうか。結果として、選手はもちろんのこと、関係者やファンの基準においてベルトの価値が目減りして軽量化していることは疑いようがない。世界チャンピオンたる者、その技量が秀でたものであることは当然で、加えて権威と価値を損なわないように最大限の努力をすべきだ。そのうえで、チャンピオンは次の世代にリングの上でバトンを受け渡す義務も負っていると筆者は考える。仮に王座返上、転級の道を選択するとしても、「勝ち逃げ」ではなく、そのクラスでの最強を証明してからでないと、「誰が一番強いのか」を知りたいファンに対しても失礼だ。

 たとえば、選手の転級に際し、「少なくとも半年か1年は世界戦の機会が得られない」とルールで定められていたらどうだろう。王者とその周辺は、今よりも熟考する必要に迫られるのではないだろうか。ベルト返上を思いとどませる堰(せき)になる可能性は十分にあるはずだ。

 主要団体が4つ(※)に増え、階級もミニマム級、スーパーフライ級、スーパーミドル級、クルーザー級の4クラスが増えて17階級時代に入ったのは、1980年代のことだった。それから30有余年――、量の増加が質の低下を招いたことは否めない。前述のように、いくつかの改革案は浮かぶものの、決定的な一打になるかも不明だ。結局のところ、ボクシングの将来は、選手や関係者の良識と、プロ意識に委ねるしかないのだろう。そんな現状が、なんとも歯がゆい……。

※主要団体とは、WBC(世界ボクシング評議会)、WBA(世界ボクシング協会)、WBO(世界ボクシング機構)、IBF(国際ボクシング連盟)の4つ。

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