【ボクシング】減量失敗に王座返上。度重なる愚行に物申す (2ページ目)

  • 原功●文 text by Hara Isao photo by Getty Images

 計量失敗者たちが後を絶たないのは、ロドリゲスのように罰金によってミスが精算されてしまうこととも無関係ではなさそうだ。昨年6月、次世代スター候補のミゲル・アンヘル・ガルシア(アメリカ)も計量で失格してWBOフェザー級王座を失ったが、15万ドル(約1575万円)の罰金を払って試合に臨み、KO勝ちを収めている。その試合後、ガルシアは1階級上のスーパーフェザー級で1位にランクされ、5ヵ月後の次戦で2階級制覇を成し遂げている。こうした闇雲(やみくも)に突っ走るスター優遇措置が、ファンの失望と王座の価値下落に拍車をかけているともいえる。計量失格者については、罰金はもちろんのこと、期限つきの出場停止など厳しい処分こそ、必要かつ有効なのではないだろうか。意図的に体重オーバーで試合に臨んだ選手には、ライセンス没収ぐらいの強い姿勢で臨むべきである。

 このような世界で嘆かわしい傾向がある一方、日本にも注視すべき問題がある。それは、せっかく獲得した世界王座を返上するケースが後を絶たないことだ。その風潮も、世界タイトルの価値そのものを大きく下落させている要因といえる。

 1952年に白井義男が日本に初の世界王座をもたらしてから62年――。日本のジム所属の世界チャンピオンは74人(男子)を数えるまでになった。これはアメリカ、メキシコ、イギリスに次ぐ数である。日本は世界に誇るボクシング大国のひとつといってもいいだろう。

 こうしたなか、ここ13年間で集中して起こっているデータがある。それは、世界王座を返上する日本人世界チャンピオンが一気に増えたことだ。白井氏の戴冠から2000年までの48年間に誕生した世界王者は約40人いるが、世界王座を返上した例は皆無だった。辰吉丈一郎がWBCバンタム級の暫定王座を返上した例はあるものの、これは網膜剥離のために試合ができる状態ではなかったからだ(のちに国内ルールの一部が改正された際、WBCは辰吉に暫定王座を返還している)。世界王座はボクサーにとって「最強の証」であると同時に、ビジネス面からみれば、「利権」そのものともいえる。つまり、王座返上はビジネスの機会を自ら放棄するに等しい行為といえる。

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