足掛け21年。引退するピーター・アーツとの思い出を振り返る (3ページ目)

  • 布施鋼治●文 text by Fuse Koji photo by AFLO

 1994年にK-1ワールドGPで初優勝を遂げたころ、まだ若かったアーツは、夜のネオン街が大好きだった。しかし、エスタとの間に双子の子ども――マルシアーノとモンタナが産まれてから、1日の生活はガラリと変わった。

 この時、アーツは私に本音を漏らしている。

「たしかに若いころは毎日のように盛り場に繰り出していた時もあったけど、今はもう、そんな気は全然ない。月に1回、カフェに行く程度だね。子どもたちが『お父さんは世界で一番強い』と言ってくれることが、一番の励みになっているんだよ」

 あれから9年の歳月が流れた。その間、オランダに自分のジムをオープンさせたアーツは、さらに多忙になったと聞く。今春インタビューした際、12歳になった子どもたちの現在を聞くと、アーツは相好を崩した。

「息子のマルシアーノはバスケットをやっていて、北オランダチームの代表に選ばれた。身長も180センチもある。たぶん、私よりも大きくなるだろうね。一方、娘のモンタナは週に一度、私と一緒にキックをやっている。将来は選手としてやりたいといっているので、自分がトレーナーをやるしかないのかなと悩んでいるところだ」

『GLORY13』(12月21日/東京・有明コロシアム)で組まれた『アーツ2世』こと、リコ・ベホーベンとの引退試合には家族も呼ばれている。試合後には、引退セレモニーも用意されているようだ。だからといって、ベホーベンに対しておとなしく道を譲るつもりはない。将来のキックボクシング界を背負って立つと期待されている24歳の逸材に、アーツは何かメッセージを残してからグローブを置こうとしている。

「たしかにベホーベンは現在のヘビー級ナンバー1なので、必勝宣言はしないけど、この先、彼の人生が難しくなる試合にしてやるつもりだ」

 そして最後、引退後のビジョンについて聞くと、アーツはかつて日本中の格闘技ファンを魅了したスマイルを浮かべながら、口を開いた。

「ずっと身体は動かしていたいからね。マラソンでもやろうかな」

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