【ボクシング】村田諒太、世界王者への道はまだまだ遠い (2ページ目)

  • 原 功●文 text by Hara Isao photo by AFLO

 こうしたなか、「もし戦うとしたら」という視点で、付け入るポイントを探りながら観戦した選手もいた。元WBA世界スーパーウェルター級暫定王者の石田順裕(38歳/グリーンツダジム)である。リングサイドで観戦後、石田は興味深いコメントを残している。「早い段階で柴田さんの腰が引けてしまったのが残念。(村田の)右が来るのが分かっていながら、サークルすることしかできなかったじゃないですか。僕なら出てくるところに右のカウンターを狙います。(村田が)強いのは間違いないけれど、こう戦えば、というのも見えました。ぜひ戦いたいですね」。最後はラブコールを添えて、村田をこう分析した。すでに村田は、元世界王者からも対戦候補として意識される存在になっているのである。

 その村田本人は、自分のボクシングで最も自信のある部分として、「プレッシャーのかけ方」と答えている。その理由として、「僕と対峙して下がらなかった相手はいなかったから」と加えた。30戦目にしてこれ以上ないほどの完敗を喫した柴田のコメントが、それを裏づけている。「身体の力、プレッシャーがすごくて、何もできませんでした......」。また、今回の試合を前に20ラウンド前後のスパーリングの相手を務めた日本ミドル級王者、中川大資(35歳/帝拳ジム)も同様の感想を口にしている。「フィジカルの強さ、体力を生かしてプレスする力は飛び抜けています。イメージとしては、壁が押し寄せてくる感じです。それでスタミナも削られてしまうんです」。

 ただ、パワーやフィジカルの強さ、巧みな圧力のかけ方など、一定の答えを出している村田だが、見据える先が世界であることを考えると、初陣で東洋太平洋王者を圧倒したからといって満足などしていられない。なにしろ、160ポンド(約72.5キロ)を体重上限とするミドル級には、世界中に数えきれないほどの実力者がいるのである。その頂点にいるのが、2004年アテネ五輪ミドル級銀メダリストであり、現WBA王者のゲンナジー・ゴロフキン(31歳/カザフスタン、ドイツ)だ。キャリア7年で27戦全勝(24KO)と完璧なレコードを誇り、前出の石田を含め、目下8連続KO防衛中の絶対王者である。当然といえば当然だが、村田自身も、「今は勝てない」と脱帽するしかない強さを見せつけている。

 興味深いのは、このゴロフキンがプロ転向後にコンビを組んだアベル・サンチェス・トレーナーから、徹底して「プロ仕様のボクシング」を叩きこまれた点だ。やや前傾に構えて圧力をかけ、持ち前の強打を最大限に生かすという戦い方は、実は近年になってゴロフキンが会得した戦闘スタイルなのである。幸運にも現在、村田も数多くの世界チャンピオンを育成した実績を持つ名伯楽イスマエル・サラス・トレーナーの指導を受けている。帝拳やアラム・プロモーターのバックアップもある。体力、パンチ力、巧みな圧力のかけ方という点で、村田がゴロフキンをお手本にして、「プロ仕様のスタイル」を確立させていく環境は整っている。

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