【ボクシング】4戦目で日本チャンプ。井上尚弥は辰吉を超えられるか!? (2ページ目)

  • 原 功●文 text by Hara Isao photo by AFLO

 しかし、田口戦ではいくつか課題も浮き彫りになった。

 そのひとつが、終盤になると身体を立たせる場面が増え、アゴが上がり気味になる点である。これは4月の試合でも見られた傾向だ。12ラウンド制で行なわれる世界戦は、さらに長丁場となるだけに一抹の不安を感じさせる。

 すでに井上は現在の実力でも、ライトフライ級のIBF王者ジョンリエル・カシメロ(23歳/フィリピン/18勝10KO2敗)や、WBO王者ドニー・ニエテス(31歳/フィリピン/31勝17KO1敗4分)とは、互角以上の戦いをすることができるだろう。ただし、WBAの『スーパー王者』ローマン・ゴンサレス(26歳/ニカラグア/35勝29KO無敗)、WBA王者の井岡(12勝8KO無敗)、WBC王者アドリアン・エルナンデス(27歳/メキシコ/27勝16KO2敗1分)が相手となると、厳しい戦いを覚悟せねばなるまい。世界王者級の力量はあるが、確実に彼らを凌駕するかどうかは不明――というのが、現在の井上の位置づけといえる。

 井上陣営では、年内にもう一戦こなし、「6戦目で世界挑戦」という青写真を描いているようだ。となると、「5戦目」が重要な意味を持ってくる。個人的な希望をいうならば、ここで中南米の強豪とのテストマッチを組んでほしい。井上の過去4戦の相手は、フィリピン、タイ、日本(2人)で、「軽量級の宝庫」と言われる中南米選手との試合経験はない。リズムも、距離感も、パンチの軌道も異なる経験豊富なラテンの猛者との戦いは、20歳の俊英にさらなる成長をもたらすはずだ。

 それは、辰吉が通った道でもある――。

 世界前哨戦と銘打ったプロ6戦目で、辰吉はベネズエラの世界ランカー(アブラハム・トーレス)のジャブと技巧に大苦戦。辛うじて引き分け、前哨戦をやり直すことになった。が、続く7戦目では世界上位ランカーに圧勝、8戦目の世界戴冠に弾みをつけたものだった。

 井上は4戦目の日本王座獲得を果たしたにもかかわらず、試合後には、「辰吉さんの方が何十枚も上手。僕は未熟」と謙虚に語った。その向上心と負けん気、研究心があれば、自力で歴史の扉を開ける日は遠からず必ず来るはずだ。

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