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【プレーバック2024】髙橋藍はベストゲームで敗れたイタリア戦を「本当の意味で、勝つイメージができるか」と振り返った (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【イタリアは勝負に対して、とことん現実的だった】

 一方、イタリアは勝負に対し、とことん現実的だった。日本に追いついて逆転すると、勢いを増した。彼らのサーブは1セット目、6本もミスになっていたが、逆転を契機に日本に襲いかかる。日本を防戦一方に追いこむと、得意のブロックも決まるようになった。それは彼らの勝利の方程式にも見えた。

 4、5セット目、日本は戦いを立て直し、追いすがっている(どちらもデュースには持ちこんだ)。いくつかの攻防はあった。しかし、何かに阻まれているようにも見えた。

 「本当の意味で、勝つイメージができるか」

 髙橋は、そう勝負の極意を語っている。

 「(昨シーズン)イタリアでファイナルを経験した時もそうでしたが、(トップに立つのは)甘くないって思いました(準優勝)。決勝に行ってからも、勝つのはすごく難しい。そこでの経験の差は出ますね。たとえば(優勝した)ペルージャの(ウィルフレド・)レオン選手も、(シモーネ・)ジャネッリ選手も、決勝で勝つ経験を重ねてきた選手がいて、そこで現実的に勝利をイメージできるか」

 イタリアと比べると、勝利をイメージする厚みのようなものが違ったのかもしれない。日本男子バレーは東京五輪でベスト8に勝ち抜き、一昨年、昨年とネーションズリーグで銅、銀を獲得するなど、目覚ましい進化を遂げている。

 しかし、長く低迷を続けてきた。1996年アトランタ五輪から2016年リオ五輪までの6大会では、2008年北京五輪に出場するのがやっとだった。一方、イタリアは多くの国際大会で常にトップを争ってきた。オリンピックはリオまで6大会連続の準決勝進出(銀メダル3個、銅メダル3個)。強さを積み上げてきた手練れだ。

――髙橋選手がプレーしていたイタリアが相手だったのは運命的で、彼らの負けず嫌いがわずかに上回ったのでしょうか?

 ストレートな質問をぶつけると、髙橋は明るい声で返した。

 「イタリアには、(ジャンルカ・)ガラッシだったり、(マティア・)ポトロだったり、同じチームでやっていた選手がいました。他にも、シーズン中にも常に対戦していた選手ばかりで、このオリンピックでイタリアに当たるというのは特別な感じはありました。だからこそ負けたくなかった、というか。イタリアだったからこそ、勝ちたかったという思いはめちゃめちゃありましたね」

 イタリアで己を磨いてきた彼にとって、悪夢に近い結果だったに違いない。しかし、彼は正面から敗北と向き合っていた。これから絶対王者となるために。

 「1点を取れる選手になっていくため、レベルアップしていきます。悔しさを乗り越えるためには"次のオリンピックでそれ以上の結果を出すしかない"って思っているので」

 髙橋の決意だ。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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