大林素子は中学1年の新人戦で1点もとれず。顧問の先生から「落ち込んでいるようだけど、そんな資格はない」 (2ページ目)

  • 中西美雁●取材・文 text by Nakanishi Mikari
  • 立松尚積●写真 photo by Tatematsu Naozumi

この記事に関連する写真を見る――中学時代は練習をしないままだったんですか?

「分岐点になったのは、秋に1年生だけが出場する新人戦です。この大会は私も楽しみだったんですが、相変わらず練習は休んだりサボったりしていた。なのに、いきなりスタメンに抜擢されたんです。選ばれた理由はわからないけど、他の部員には『いいよね、もっちゃんは大きくて』などと言われていました。

 でも、出られるのはうれしいから張りきって試合に臨んだら......。スパイクが手に当たらなくて私ひとりだけが1点もとれず、相手の攻撃も1本も拾えませんでした。でも、最後までベンチには下げられず、コートの上に立ち続けたんです」

――相当、悔しかったでしょうね。

「悔しさはもちろん、恥ずかしかったし情けなかった。でも、試合後に顧問の作道講一郎先生からは『大林、お前は落ち込んでいるようだけど、そんな資格はないよ。君は落ち込んでいいほど練習してないじゃないか』と言われて。当たり前のことではあるんですが、そこで自分に対してショックを受けました。痛い目を見たことで、ようやく『やらなきゃダメなんだ』と気づかされたんです。

 もしその試合に出ていなかったら、もしくは1、2回ミスをして交代させられていたら、『あーダメだった。つまらなかったな』で終わっていたでしょうね。でも、監督はあえて私をコートに立たせ続けてくれた。その試合の勝利を棒に振ってでも、私に『やらなきゃ』という意識を叩き込んでくれたんです。その日を境に生まれ変わり、練習もマジメにやるようになりました」

――そのことについて、監督と話をしたことはありますか?

「話をしたのは何年か経ったあとでしたね。その時に監督も『大林に"今の自分"を知ってほしかったし、何か感じてほしかったんだ』という意図を聞きました。もしかしたら他に、『どうにもならない選手がいても、それをカバーする必要があることをチームメイトに教えたい』という考えもあったのかもしれません。バレーボールはチームスポーツで、みんなが完璧にプレーできるわけじゃありませんから。とにかく、その時の監督の采配には今も感謝しています」

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