ロンドン五輪直前、竹下佳江にまさかの事態。メダル獲得へ激痛を仲間にも隠し続けた (3ページ目)

  • 中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari

 検査の結果は、左手人差し指の骨折だった。

「『マジか!?』と思いましたよ。オリンピックに向けていい状態で仕上がってきていたのに、ここでケガするのかと。ただ、その時期はずっと体がしんどくて、集中力に欠けることがあったから、ケガにつながったんだろうとも思います。監督がどんな判断を下すかもわからなかったですし、いろんなことを考えましたが、『諦める』という思考にはなりませんでした。『指が折れている状態で、どうプレーできるのか』と気持ちを切り替えました」

 チームドクターは当然ストップをかけたが、竹下は「痛くないです。できます」と眞鍋に告げた。眞鍋はしばらく考えてから、「できるというなら、お前を使う」と答えたという。さらに竹下の希望で、他のチームメイトには大会が終わるまでこのことを伏せることにした。

 骨折した指に添え木をして、テーピングで巻いて五輪に臨んだ。普段の竹下は、指先の感覚が少しでも失われることを嫌ってテーピングをしない。その時点で「いつもの竹下」ではないのだが、白ではなく肌に近い色のテーピングを使用し、周囲に悟られないようにした。筆者も、テレビ中継でロンドン五輪の全試合を見ていたが、「竹下選手にしてはアンダートスが多いな」と若干の違和感があった程度で、テーピングにはまったく気づかなかった。

「試合やチーム練習の前に、ひっそりと『今日の痛み』を知るためのトス練習をしました。その痛みを体に覚えさせて、その中で最大限のいいトスを上げていく。あの痛みは、二度と経験したくありません(笑)。オリンピックでもトスの質はそんなによくなかったと思います。そういう違和感があったであろうトスを一生懸命打ってくれた仲間たちには、本当に感謝しかないです」

 準々決勝の中国戦も、竹下は折れた指でフルセットを戦い抜い抜き、勝利に導いた。

「たぶん、すごく痛かったと思うんですけど、気にしている余裕がなかったですね。『絶対この試合を取りたい』『私たちが勝つんだ!』という思いで必死にプレーしていました。それでも、負ける気はしなかった。メンタルから崩れる選手が出てもおかしくない展開でしたが、あの試合に関してはひとりもいませんでしたね」

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