「怒ってはいけない」。益子直美は「昭和の指導の連鎖」を断ち切りたい (2ページ目)

  • 村上佳代●文 text by Kayo Murakami
  • photo by Sunao Noto

ミスを怒られる環境ではチャレンジしなくなる

―― 益子さん自身は、厳しい指導を受けて強くなってきた世代ですよね。

「私は昭和の世代。監督やコーチに毎日厳しく怒られ、叩かれることすら当たり前の環境で育ちました。厳しい指導があったからこそ体が強くなり、技を磨くことができた反面、心の部分は育たずに、ネガティブな気持ちをずっと持ち続けていました。『ミスをしたら怒られる』という気持ちが常にあったので、監督に言われたとおりのプレーしかせず、それも思うように決まらない。勝つためには自分自身の工夫が必要なのに、ミスが怖くてチャレンジができない。無難なプレーしかできなかったんです」

―― 厳しすぎる指導ゆえに自主性が育たなかった、と。

「『怒られる=何をすべきか答えを教えてもらっている』ということなので、自分自身の思考がストップしてしまうんですよね。私の場合、高校までは言われたとおりにしか動いていなくて、社会人になった途端に『自主性を持て』『バレーを楽しめ』と言われた。だからどうしたらいいかわからず、結局引退まで悩み続けました」

―― 子どもの頃から受けてきた指導が、将来にも影響を及ぼすんですね。

「そうですね。私も現役時代は『オリンピック選手になりたい』と上辺では言っていましたが、実際には具体的にどういう選手になりたいかとか、オリンピックに出てどうなりたいかとか、明確なビジョンをまったく持っていませんでした。引退後に初めて、バレーボールだけが上手でも生きていけないんだなと気がついたんですよね」

―― 楽しみながらプレーをすることの重要性が説かれる一方で、「そんな甘い考えでは強くなれない」という声も聞かれます。

「かつての恩師に『監督はどんな指導を受けてきたんですか?』と聞いたことがあるのですが、『俺たちの時代はもっとひどかった』とおっしゃったんです。当時は指導法が確立されておらず、学ぶ機会もなかったので、自分が受けてきた指導がそのまま連鎖していたんですよね。だから、どこかでその流れを断ち切らないといけない。

 厳しい指導を受けても、プレッシャーを跳ね返して強くなる選手はいますが、私のようにトラウマになってしまう選手もいます。ストレスで体調を崩したり、自信を持てなかったり、なかには自殺してしまうケースもあります。そういう現状を多くの方に知っていただきたいし、強くなるため、勝つためという理由で暴力や暴言をともなう厳しい指導が許されることはあってはいけないと思います」

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