正セッター佐藤美弥に重圧と深い悩み。多彩なトスワークが影を潜める (2ページ目)

  • 柄谷雅紀●取材・文 text by Karaya Masaki
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORTS

 もともと、中田監督に「ミドルブロッカーを引っかけての展開がうまい」と言わしめる多彩なトスワークが持ち味だ。日本人では長身セッターに分類される身長175センチの高さ。そして、ジャンプトスを怠ることなく、常に高いセットアップ位置でボールをアタッカーに供給する技術は群を抜いている。

 それだけに、W杯で力を発揮できないことにジレンマを抱えている。むろん、負けたのはチームとしての結果であり、佐藤ひとりが抱え込むことではない。チームのコンセプトとして1本目のパスが低くなっていることで、難しい状況が作られていることも原因のひとつだろう。だが、コートでもっともボールに触れる回数が多いポジションであり、誰よりも責任感が強い佐藤だからこそ、悩みは深い。

 W杯に期するものは大きかった。昨季も正セッターとして期待され、事実、8月のアジア大会ではその役割を全うした。結果は中国、韓国、タイというアジアのライバルからひとつも白星を挙げられない4位だったが、大会を通して大役を果たしたことで得たものは大きかった。

 その成果を9月末の世界選手権に――。そう思っていた矢先に右肩のケガで代表離脱を余儀なくされた。世界選手権で6位に食い込んだチームの活躍をテレビで見るのは、つらいことだった。

「いい試合を重ねていて、チームが固まっていくように見えて......。すごい悔しかったです」

 東京五輪を目指すなかで、後れを取ってしまったという焦りもあった。だからこそ、「ここで結果を出さないといけない。チャンスをつかまないといけない」という固い決意を胸に、今大会に挑んでいた。
 
 だが、勝てない。佐藤はその事実から目を背けず、正面から向き合っている。石井や古賀、石川らとコミュニケーションを取り、微妙にトスの高さに変化をつけたり、出すタイミングを少し変えてみたり......。全体練習が終わったあとも、納得いくまでアタッカーとトスを合わせることもある。敗戦が続く重苦しい状況でも、映像を見直して反省し、課題を埋めていく作業を欠くことはない。

 世界3大大会(五輪、世界選手権、W杯)と言われる大舞台で日本の正セッターを務める重圧も、身をもって味わっている。

「重いものだとは思っていたし、その責任もわかっていたつもりなんですけどね......。自分の力が出し切れないということは、セッターとしてチームみんなの力が引き出せないということ。みんなが歯がゆさを感じながらプレーしてしまうことになるのかな、とも思っている。結果にはすごい責任も感じるし、プレッシャーもなくはないですけど、それに打ち勝っていかなきゃいけない」

 佐藤の目は、まだ戦う意志を失っていない。ブラジル戦後、こうも言った。

「通用する部分もしっかり見えたので、この敗戦を次につなげたいと思います」

 ようやく射止めた正セッターの座。ここで折れるわけにはいかない。佐藤自身が、何よりもそのことをわかっている。

 佐藤のトスワークが輝きを取り戻したとき、日本に反攻の時が訪れるはずだ。

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