サオリン&さおりが泣いた。タイ戦の大逆転劇を生んだメダリストの底力 (3ページ目)

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu    中村博之/PICSPORT●写眞 photo by Nakamura Hiroyuki/PICSPORT

 セッターの宮下遥は高さも才能もある。でも21歳と若い。焦ると、トスが微妙に乱れる。初めての五輪最終予選。「実は3セット目ぐらいから、手がずっと震えていました」と宮下は打ち明けた。

「初めての経験でした。でも、こういう苦しい試合を勝ち切れたことは、私にとってすごく自信になると思います」

 ロンドン五輪までは、ベテランセッターの竹下佳江さんらが木村らスパイカーを育てた。いまは木村ら、ベテランのスパイカーによって、若いセッターの宮下が成長させられている。代表チームとはそういうものだ。

 もうひとり、木村に代わって、初めて先発出場した石井優希も、よく奮闘した。石井は所属する久光製薬監督で、往年の名セッター中田久美さんから、この日朝、LINEが届き、「目から光線を出せ!」と檄を飛ばされていた。

 石井が笑って思い出す。

「“目から光線を出してがんばりなさい”って。光線を出したかって、ははは、自然と声は出せました。喜ぶところは喜んで、締めるところは締めて、光線というか、強い気持ちは出せたと思います」

 死闘だった。ビデオ判定を要求する「チャレンジ」の連発で、中断のやたら多い、ひどい試合となった。でも、こういう荒れた試合では最後、どちらの方がより勝ちたいのか、集中力をより維持できるのかで勝敗の帰趨(きすう)が決まる。経験豊富な五輪メンバーがいる日本がそこで、しのぎ切った。

 フルセットの最終セット。日本は6-12と6点差をつけられた。でも、あきらめない。結束した。驚異的な粘りを見せた。相手チームのレッドカードによる2得点を含む8連続ポイントでマッチポイントにこぎつけ、最後は迫田のスパイクで15-13。

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