現役引退のロジャー・フェデラー。多くの人に愛されたスーパースターがテニス界に残した功績を振り返る (2ページ目)

  • 神 仁司●文・写真 text&photo by Ko Hitoshi

最強なのに謙虚な姿

 永遠に勝ち続けることなどありえないのに、それも可能ではないかと思わせるほど圧倒的な強さを披露したのが、フェデラーだった。男子プロテニス界で、史上最強のオールラウンドプレーヤーと称され、テニス史に数々の金字塔を打ち立てた。グランドスラム20勝、ツアー優勝103回、マスターズ1000大会優勝28回、ツアー最終戦出場17回(大会史上最多)、ツアー最終戦優勝6回(大会史上最多)、世界ナンバーワン在位310週、世界ナンバーワン連続在位237週、年間ナンバーワン5回。

 2005年には、年間通算成績81勝4敗となり、ジョン・マッケンローが1984年に樹立したツアー年間最高勝率9割6部5厘(82勝3敗)まであと1つに迫った。さらに2006年には、年間通算成績は92勝5敗で、これはフェデラーがシーズンに挙げた最多マッチ勝利数となった。そして、2009年には、4大メジャーを全制覇するキャリアグランドスラムを達成した。

"フェデラー時代"を築き、多くの記録を残したが攻撃的なテニスとは対照的に、いったんプレーから離れれば、彼はいつも謙虚であった。たとえば、2011年男子ツアー最終戦で優勝し、新記録となる6回目の優勝を成し遂げ、5回優勝のイワン・レンドルとピート・サンプラスを抜いた時、本人はあくまでも控えめだった。

「かなりうれしいし、本当に誇りに思う。でも、自分がサンプラスやレンドルより優れているとは思わない。比較してもらうのはうれしいけど」

 また、フェデラーほど世界中で愛された選手はいないのではないだろうか。どの国、どの大会、どの会場でもファンから愛情のこもった拍手や声援を一身に受けた。

 人気が高かった理由のひとつに、フェデラーのテニススタイルが挙げられる。彼は美しいテニスを体現できる数少ない選手のひとりだ。流れるような華麗なテニスに魅了されたファンは実に多い。特に、現代テニスでは少数派になった片手バックハンドストロークのスイングは秀逸で、フォームはまるでバレリーナのようなしなやかな端麗さがあり、同時に非凡な才能の輝きも感じられた。

 2013年に成績が振るわなかったフェデラーを再浮上させたのが、2014~2015年にフェデラーのツアーコーチを務めたステファン・エドバーグさんだった。エドバーグさんは、フェデラーの子供時代のアイドルだ。

 もともとフェデラーは、サーブ&ボレーを多用する選手だったが、ナダルやジョコビッチの強力なリターンやパッシングショットに対してネットプレーは分が悪くなることが多くなり、ベースラインでの打ち合いを重視するようになっていった。だが、エドバーグコーチは、再びフェデラーにネットプレーをなるべく多く使うようにアドバイスして、攻撃的なプレーを最大限に引き出し、成績も再び上向いた。

 ちなみに、フェデラーのラストマッチで、試合前のコイントスを務めたのがエドバーグさんで、実に粋な計らいだった。

 フェデラーのテニスキャリアにおいて、大きなケガはないというのが彼の特徴のひとつでもあったが、2016年2月、34歳の時に初めて左ひざの手術を行なった。幸いにして戦列復帰は早かったが、当時次のようなコメントを残している。

「手術をしなければならないと聞いた時は、とても悲しかった。医者を信じるしかなかった。麻酔から覚めて、自分のひざを見た時、自分の足ではないように感じた」

 その後は、2020年2月に右ひざの手術、6月に再手術。2021年8月には右ひざの3度目の手術行なった。当時40歳のフェデラーは、「僕の一番の動機は、日常生活に必要なコンディションを取り戻すことだった」と語り、自分の引退が近づいていることを悟ったかのようだった。

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