ウインブルドン初出場の宮崎百合子は日本国籍、英国所属。今年3月から特異なキャリアを歩むことになった理由

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

日本国籍を保持したまま...

 最初の転機は、2020年3月----。

 前年にプロとして本格的にツアー転戦を始めた宮崎は、当時ランキングを400位台にあげ、さらなる飛躍を目指し日本開催のITF(国際テニス協会)大会群を転戦する予定だった。

 果たして、そのスタートとなる「慶應チャレンジャー女子国際テニストーナメント」では、決勝で本玉真唯に競り勝ち優勝。その戦績により、複数の日本企業からスポンサー申し出の声もかかった。このまま続く大会群でも結果を残せば、さらなる知名度と支援を獲得できたかもしれない。

 ところがその直後、新型コロナウイルス感染拡大のため、日本国内を含む世界中の国際大会は突如として中止となった。日本に拠点のない宮崎は、英国に戻らざるを得ない。とはいえ、英国でも思うように練習ができるわけでもない。

 ただその時、英国テニス協会(LTA)は宮崎にしばしば連絡をくれたという。日本人として大会に出ていた宮崎には、本来ならLTAの施設を使う権利はない。それでも、あくまで英国人選手のヒッティングパートナーとして、ときおり呼ばれることもあった。

 LTAの施設には、宮崎曰く「インドアハードコートが6面。屋外にもハードが6面、クレーが4面、芝も4面」揃っていると言う。対する日本のナショナルトレーニングセンターには、インドアハードとクレーが各2面ずつ。ウインブルドンという巨大収益箱を持っている英国とは、その規模は比べるべくもない。

 それらLTAからの声がけがありながらも、ある時点まで宮崎は「日本国籍のままでプレーをしようと思っていた」と言った。ただLTAは、宮崎のために多くの便宜をはかってくれたという。

「日本が二重国籍を認められていないことも、LTAは知っていました。そのうえでLTAは、ITF評議会にメールを送り、私が長くイギリスに住んでいて、市民権も住所も、テニスの拠点も英国にあることを説明してくれました。

 さらには、これまで日本代表として国別対抗戦などに出たことがないことも説明したうえで、私が日本国籍を保持したまま、英国人としてツアーに出ることを承認してくれるように頼んでくれたんです」

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