大坂なおみ、苦手なクレーコートで新技に挑戦。ナダルを見て学び、動きも少々ぎこちないが「楽しんでいる」 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

クレーはまだ成長過程の大坂

 この日の試合で、新技の披露はあったのか?

 実は......リターンゲームで迎えたマッチポイントこそが、その「新しい試み」だった。

 勝利に1ポイントと迫ったこの場面で、大坂は相手がサーブを打つよりも早く、リターンポジションを大きく左側へと移していった。目的は、バックハンド側に打たれたサーブを、フォアハンドで強打すること。

 はたして狙いどおり、大坂はフォアハンドの逆クロスをライン際に叩き込むと、相手がかろうじて返したボールをクロスに強打。そのままネットに詰めて、最後はボレーで試合に終止符を打った。

 勝利後にこぼした、はにかんだ笑みは、練習中の技を実戦で完遂できた喜びと安堵ゆえだろう。リターンポジションへの移動は、いささか始動が早すぎるし、動きも少々ぎこちなかった。それでも試合で試さぬかぎり、真の体得もないことを、彼女はよく知っている。

 事実、この日の試合でも彼女は2ゲーム前に同様のプレーを試し、その時はリターンが浅く、逆にウイナーを奪われた。その反省点を生かしての、マッチポイントでの成功だ。

「ナダルやイガ(シフィオンテク/ポーランド/現在世界ランキング1位)も、ああいうプレーをよくやっているので、見て勉強しているの」

 4度のグランドスラム優勝を誇る世界1位経験者も、クレーではまだまだ成長過程。そのプロセスを、今の大坂は「楽しんでいる」と言った。

 コップの半分が水で満たされている時、これを「半分しか入っていない」と見るか「まだ半分入れられる」と捉えるかで、心構えは大きく変わると言われている。

 今の大坂は、新たな技を豊かな器に注ぎながら、日々表情を変える赤土のコートへと向かっていく。

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