リハビリ中の錦織圭が沖縄に突如現れた。「マリーになる寸前だった」というケガの回復具合を聞いた (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

経験に基づいた錦織の助言

 こうして概要をひと通り解説したあとには、選手一人ひとりのリターンを見ながら、個別に助言を与えていく。

 それも、通り一辺倒な指導ではない。「一度試しに、自分のなかで一番ちっちゃいと思うテイクバックで打ってみて」「スプリットステップを、わざとらしいくらい高く飛ぼうと意識してみて」と、飾らぬ言葉で核心を伝えていった。

 そして仕上げは、打つ範囲をコート半面に限った、5ポイント先取の試合形式の練習。錦織本人からの「勝者にはサインと好きなジュース1本」という副賞提示に、選手たちのモチベーションは最高潮に達した。

 結果は7人のうち、サイン&ジュースの恩恵に預かった選手は1名。ひとりはマッチポイントを手にしながらも、「チキった! もう一度やりたい!」と悲痛な声を上げる無念の敗戦だった。

 それら悲喜こもごもの選手たちを前にして、錦織が送った助言は、次のようなものである。

「緊張した時ほど、ラケットを振ってください。それが普通の自分になれるように、日ごろの練習や試合の時から『緊張したら振る』というのを、ひたすらやってください」

 すると、選手たちからは「思いっきり振ると、コートに入らないんですが......」と質問が飛ぶ。その声に真摯に耳を傾ける錦織は、自身の思いや経験を寄せるようにこう応じた。

「振って、どれだけ入るまで我慢できるか。俺もリハビリの時は、いつもそう。ぜんぜん入らない時期が続くけれど、でも、入るときが来るから。その時まで、振り続ける」

 それは彼が、今の自分に言い聞かせる言葉のようでもあった。

 昨年10月を最後にコートから離れている錦織は、「手術をするまで、けっこう試した時期が長かったので」と、術前に多くの試行錯誤を重ねてきたことを明かした。

 MRI撮影では、ダメージを示すカゲは映っていたという。だが、「中を(切って)見てみないと、どれくらい傷ついているかは明確にわからない」なかで、「12月、1月はずっと、もやもやしていた」と言葉をこぼした。

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