大坂なおみ、涙の理由、そして引退を語る。「想定外のことが起きて、訳がわからなくなってしまった」 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

60位に落ちて引退するよりも...

「彼女は子どもの頃から、全豪オープンをたくさん見てきたと思う。そのオーストラリアで優勝して引退するのは、きっといい気分だろうなって。

 優勝したから引退するのか、それとも、その前から引退を決め、これが最後のチャンスと思って全力で戦っていたのか、それはわからない。いずれにしても人生には、『ひとつの章が終わった』と感じる瞬間がある。彼女はきっと、そう感じたんだと思う。

 彼女の引き際がクールだと思ったのは、それが私にとっても、理想の引退だから。60位とかに落ちて引退するよりも......。

 今現在60位にいるのは、別に悪いことではないわよ。ただ、世界1位とグランドスラム優勝を夢見た、かつての子どもとして......もし彼女が自分のなかの子どもと対話したら、その子は今の彼女を、とても誇りに思うはずだから」

「私にとっても、理想の引退」と口にした時、彼女は恥ずかしそうに笑った。きっとそれは、彼女が心に秘めていた、ひとつのそうありたい自分像なのだろう。

 今の大坂が、果たして何を求め、どこを目指しているのか?

 おそらくは本人も答えを求めているその問いへの、ヒントが次の試合に隠されているかもしれない。その相手とは、元世界1位で現15位のベテラン、アンジェリック・ケルバー(ドイツ/34歳)。

「子どもの頃にテレビで見ていた選手と対戦できるのはクール。私の現在地を知るうえでも、いいテストだと思う」

 そのテストの先に、進む道が拓けるはずだ。

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