大坂なおみに突如襲った第3セットの乱調。「硬くなってしまった」のは、実は根深い問題だ (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

年間9大会は相当に少ない数

 かくして、流れとしては大坂優勢で迎えた第3セット。

 ところが大坂は、最初のゲームで2本のダブルフォルトを連ねてブレークを許す。続くゲームをあっさり取られて0−2となると、第3ゲームでも2度のダブルフォルト。突如としての乱調に、試合の趨勢は決したかに思われた。

 試合後に大坂は、この局面で自身と次のように対話したと明かす。

「どうして、こんなに硬くなっているの? そう自分に尋ねた時、返ってきた答えは、これが最後のセットだと思っているから......だった。第2セットでの私は、いいプレーをすれば第3セットが戦えると考えていた。でも、このセットを落としたら、次はない。それが緊張につながった」

 そこで大坂は、「考えすぎることをやめ、足をスムーズに動かすことに集中した」という。

「ポイントごとに全力でプレーし、スコアは考えないようにした」

 そのような思考で心を御し、3度のブレークポイントを切り抜けキープした第3ゲーム。するとこのゲームを皮切りに、勢いをつけた大坂が6ゲーム連取の電車道。4度のグランドスラム優勝者が荒れた試合を逆転勝利でもぎ取った。

 終わってみれば、大坂が地力を見せつけたかのようにも見える初戦の勝利。

 ただ、第3セットで陥った「硬さ」は、大坂が抱える抜本的なジレンマに起因した、実は根深い問題だ。

 この1年間で大坂は、昨夏の東京オリンピックも含めて、9大会にしか出場していない。ほどんどの選手が年間20大会前後を戦うことを思えば、これは相当に少ない数。ランキングが78位に低迷している主因も、単純にはここにある。

 だからこそ、本人も含めて誰しもが、ランキングと実力が合致しているとは見ていない。大坂自身も「私のランキングが下がっていることを心配しているのは、ドローの早い大会で私と対戦することになる、ほかの選手たち」と言い、数字は意に介さぬ構えだ。

 その一方で彼女は、「出場大会が少ないために、出た大会でいい結果を出さなくてはいけないと考え、プレッシャーを感じてしまう」ことにも自覚的である。昨年のオリンピック、そして全米オープンも3回戦で敗れ涙にくれたのは、そんな心の仕組みを象徴する出来事だ。

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