大坂なおみ「自分でもよくわからない」。全米OPで突如崩壊、ラケットも投げつけ18歳に逆転負け

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 時に選手は、苛立ちを放出することで集中力を上げるが、大坂の場合は、ネガティブな感情を増幅させる結果に陥る。最後はフェルナンデスのサービスウイナーで、第2セットは18歳の手に。終わったかに思われた試合が突如、熱を帯びたことに、センターコートの観客は熱狂した。

 両者ともにトイレットブレークを挟み、仕切り直して迎えたファイナルセット。だが、第2セット終盤に生まれた潮流は、その程度の些細な因子では変わらぬ勢いを得ていた。

 いきなりのダブルフォルトで始まった第1ゲームを、立て直すまもなく失う大坂。前年優勝者の内面の変調は、誰の目にも明らかだ。

 こうなると、第2セットではフェルナンデスを後押しした観客の心理にも、再び変化が生じる。熱戦を期待しつつも、最終的にはスター選手の勝ち上がりを望むファンは、大坂の応援に転じはじめたのだ。

 だが、試合前に「観客を味方につけたい」と笑顔で語ったフェルナンデスは、類まれなエンターテイナーの資質をも光らせる。冷静かつ知的にラリーを組み立て、会心のポイントを決めるや両手を振りあげる18歳の胆力に、ニューヨークの観客は驚嘆と共感の歓声を上げる。

 対する大坂は、苛立ちまぎれにボールを客席に打ち込み、自らを一層の窮状に追い込んでいった。

 試合が終盤に向かうにつれて、緊張するかに思われた18歳はむしろ、ファンの歓声を浴び集中力を研ぎ澄ます。勝利へのサービスゲームでは、鋭いストロークで大坂を後方に押し込み、しなやかなドロップショットをネット際に沈めてみせた。

 最後は大坂のフォアがワイドに逸れ、ありふれたシナリオかに思われた一戦は、シンデレラストーリーへと昇華する。勝者が、歓声とスポットライトを浴びるコートに背を向けて、大坂はファンの声にピースサインを控え目にかざすと、静かにコートを後にした。

 試合終了から、約1時間後----。

 会見室の席に腰を沈める大坂は、記者の質問に「自分でもよくわからない」の言葉を繰り返しては、表情に困惑と失意の色を浮かべた。

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