大坂なおみ、昨年は差別廃絶アピールも、今年の全米OPに「メッセージはない」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 USオープンの会場のそこかしこには、そんな幼いなおみ少女の記憶の残響が宿っている。

 去る5月の全仏オープン直前、大坂は「心の健康状態を守るためにも、試合後の会見は行なわない」とソーシャルメディアで発表した。それが物議をかもしたことは、もはや説明不要だろう。

 突如の出来事に面食らった全仏オープンは、大坂サイドと話し合いを持とうとするも、実現に至らず。最終的に全仏オープンは、ほかのグランドスラムと連名で「今後も同様の行為を繰り返すなら、大会そのものの出場資格を剥奪する」可能性をも示唆した。

 そのあまりに強硬な姿勢に、今度は大坂が慌てふためいただろうか。最終的に「事態を収束する唯一の手段」として、大坂は初戦勝利後に大会からの棄権を表明する。

 結局は全仏直後のウインブルドンも欠場したため、5月以降のこの3カ月間で出場した公式戦は、東京オリンピックを含めてわずか2大会。結果は、3勝2敗となっている。

 大坂が全仏での棄権を表明した時、それを知ったある日本人選手の、あまりに実直な反応が忘れられない。

 その選手は「えっ?」と驚きの声を上げたあと、しばし絶句し、「どうして......なおみちゃんが、この決断を後悔しなければいいんだけれど」と、後輩の胸中にそっと想いを寄せた。

 大坂が棄権を表明したあの時、メディアを含む大会関係者は混乱し、慌てふためき、その背景にいかなる意図や算段があるのだろうかと懐疑的にもなった。だが、大坂にも近い選手のこのリアクションこそがテニスプレーヤーのリアリティなのではと、ハタとさせられた。

 テニスのグランドスラムは、年に4回開催される。全仏オープンもウインブルドンも、毎年のように訪れる。だが同時に、2021年の全仏やウインブルドンは、今年一度かぎりのものだった。その重さが、件の選手の絶句に塗り込められていた。

 あれから3カ月経った現在、大坂を取り巻く光景は、全仏オープン以前と変わらぬ景色だ。全米オープンの開幕前に行なわれた"プレトーナメント会見"にも出席し、会見室およびリモート取材の両方に応じている。

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