錦織圭「目標が立てづらい大会」。全英では「モダンテニスの体現者」たちが立ちはだかる

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 フタを開けてみるまでは、何が起きるかわからない......。

 それは、勝負事すべてに通底する真理だろう。だが、今の錦織圭......とくにウインブルドンに挑む錦織は、そのようなテーマに直面する状況下にいた。

 ケガによるツアー離脱の影響もあり、現在の世界ランキングは53位。この数字ではグランドスラムのシードがつかないため、初戦でトップ選手に当たる可能性も十分にありえる。

芝のコートの特徴を生かしきれることができるか芝のコートの特徴を生かしきれることができるかこの記事に関連する写真を見る また、どの選手も年間数大会しか戦う機会のない芝のコートでは、ヒエラルキーがハードコートのそれとは変わってくるのも特徴だろう。

 グラスコートでは、サーブの速い選手の優位性が増す。試合序盤で勢いに乗った若手が、そのままゴールまで走り切ることもある。いつ番狂わせが起きても不思議ではない危険な戦場というのが、見た目は美しいこのコートの素顔だ。

 その芝のコートに挑むにあたり、錦織はドイツのハレで開催されたウインブルドン前哨戦に参戦した。

 2年ぶりに戦う芝の特性に戸惑ったか、初戦は波のあるプレーながらフルセットで勝利を掴んだ。だが2回戦では、伸び盛りでビッグサーバーの20歳、セバスチャン・コルダ(アメリカ)に競り負けた。

 ファイナルセットでは幾度もブレークチャンスがありながら、そのたびに時速200キロ超の相手サーブに芽を摘まれての惜敗。試合後の錦織は、自身のプレーには一定の満足感を見せながらも、「今日みたいに、どっちが勝ってもおかしくない試合ばかりになる」のが芝のコートだと、どこか諦観したかのような表情を見せた。

 錦織が示した満足感の内訳は、「1回戦より確実に......2倍くらいよかった」と言う、芝でボールを捉える感触。さらには、71%の確率でファーストを入れたサーブにある。

 とくにブレークポイントに瀕した時ほど、精度を高めたサーブで危機を切り抜けた。芝のコートでは、サーブのコースと球種次第で、スピードはさほどなくともエースやウイナーの獲得が可能である。その手応えを得られたのは、大きな収穫だったろう。

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