錦織圭「あ、負けるな...」からの逆転劇。あきらめた時に割り切ったこと (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 試合終盤になっても、相手のサーブは衰えるどころか、逆に威力と精度を増していく。ブレークされた直後の相手のサービスゲームでは、錦織は1ポイントも取ることができない。

「あ、負けるな......」

 ゲームカウント2−4になった時点では、あきらめが頭をよぎりかけた。

 突破口を見いだせないこの時の錦織に、相手の心身の状態を読む余裕はなかったという。ただ、実際にはジェネッシも、ぎりぎりのところで戦っていた。

「終盤では疲れていたし、足が痙攣しかけていた。僕には、5セットマッチを戦った経験がほとんどないから......」

 試合後にそう明かす彼は、ゲームカウント4−3とリードしたサービスゲームで、この試合6本目のダブルフォルトをおかす。疲労と、錦織のストローク力への警戒心から、「長いラリーは避けたかった」との思いがあったことも認めた。

 勝利へと急くジェネッシの心のゆらぎに、「腕を振り切っていこう」と割り切る錦織のプレーが重なった時、試合の流れが反転する。フォアの逆クロスでブレークバックに成功した錦織が、続く自身のサービスゲームをラブゲームでキープ。

 そうして5−4で迎えた相手サービスゲームで、錦織は「とりあえず、リターンを返すことだけ考えよう」と自身に言い聞かせた。ラケットに当てるだけでもいいから、とにかく返す。

 そしてこの選択は、強まりだした風との相性もよかった。不規則に揺れる滞空時間の長いリターンに、気持ちのはやるジャネッシはタイミングが合わない。

 一方「ここから(ゲームカウント)5−5に行くのは気持ち的につらい」と感じていた錦織は、このゲームに勝負をかける。相手が仕掛けたサーブ&ボレーをパッシングショットで封じ、「カモン!」の叫びとともに掴み取ったマッチポイント。

 そして、マッチポイントで相手がサーブを打った時、この日一番の強風がコート上を吹き抜けた。

 赤土が舞うなか放った錦織のリターンは、芯を外すも、風に乗ったボールは赤土の上を不規則に跳ねる。一瞬、どう処理すべきか迷ったジェネッシがぎこちなく返したドロップショットは、ネットを超えることなく、6−4、6−7、6−3、4−6、6−4の死闘に終止符を打った。

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