大坂なおみ、混乱からの脱却。コーチはいつ「勝利を確信した」のか (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 ただ、自分が対戦するとなると、彼女の考えを読むのがものすごく難しい。私は相手の感情を読むのが得意だけれど、彼女のはできなかった。

 それに、彼女は長身なのに、動きがよくコートカバー能力が高い。だからウイナーを狙おうと思った時、相手コートがものすごく小さく見えてしまうの......」

 そのような視覚的威圧感に加え、ボールを打ち合いながら感じる強大なプレッシャーもあったという。

「少しでも私のボールが浅くなると、主導権を奪われ、自分から攻めるのは不可能になる。だから常に張り詰めた精神状態だったし、自分の心地よいタイミングでボールを打つこともできなかった」

 簡単に見えるチャンスボールを、幾度もアウトにした理由が、ここにある。

「頭が混乱していた」

 そう振り返る大坂の姿は、コートサイドで見守るコーチの目にも、「予習どおりにできていない。ショット選択を誤っている」と映っていた。

 思うような試合運びができないながらも、第1セットを失ったあとの第2セットを、大坂は数少ないチャンスをモノにして掴み取る。

 だがそれでも、どこかチグハグした心技体は、カチリとは噛み合わない。

 第3セットの第5ゲームではミスに苛立ちラケットを投げ、最後はダブルフォルトでブレークを献上する。第8ゲームではブレークバックの機を逃すと、続く自身のサービスゲームでミスを重ね、相手の2連続マッチポイントの危機に瀕した。

 勝敗は決した......。試合を見ていた人の多くが、そう思っただろう。当の大坂も、「1年前の私だったら、あのまま負けていた」と述懐したほどだ。

 だが、今の彼女は、そうではない。

「試合を通じてサーブはよくないけれど、このセットはサーブのスタッツ(統計)もいいはず。まずはこの一本に集中しよう」

 最初のマッチポイントでは、そう自分に言い聞かせたという。

 実際に第3セットでの大坂は、ファーストサーブの確率こそ低いものの、入った時には1〜2セットよりもはるかに高い80%のポイント獲得率を記録していた。その自らの感覚を信じ、彼女はセンターに191キロのサーブを叩き込む。ムグルサは、反応すらできなかった。

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