錦織圭、実戦不足の代償は大きかったが収穫あり。「焦っても仕方ない」

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

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「もーう! 集中!!」

 自らを叱責する声が、コートサイドにまではっきりと聞こえてきた。

 セットカウント1−2とリードされ迎えた、第4セットの終盤。リターンを打ちそこなった錦織圭は、顔を一瞬しかめて声を上げると、すぐに表情を引き締めて腰を深く落とし、次のリターンに備え構える。

 その次のポイントでは、相手サーブをしっかりと返し、ラリー戦で打ち勝った。続くブレークポイントでは、フォアハンドの鋭いリターンで、相手のフォアを打ち破る。

試合終盤に足が止まってしまった錦織圭試合終盤に足が止まってしまった錦織圭 自分のプレーに覚える一定の手応えと、思うようにいかない局面も多々あるもどかしさ。それでもなんとか勝利を......いや、1ポイントでも多くもぎ取りたい、という執念が凝縮されているかのようなゲームだった。

 実際にこの日の錦織は、これらの情動すべてを胸に抱えてコートに立っていたようだ。

 最初のゲーム、いきなり3本連続でフォアをミスし、ブレークを許す苦しいスタート。初戦に続く出足のつまずきが影響し、第1セットは落とした。

 しかし、その後は徐々にフォアの逆クロス、さらにバックのダウンザラインなど、錦織らしいストロークや展開力も見られ始める。

 第2セットは6−2で奪い返し、第3セットは先にブレークを許すも追いつく。得意の土俵ともいえるタイブレークへと持ち込んだ。

 そのタイブレークで、錦織はポイント連取の好スタートを切る。だが、ここから相手がフォアの豪腕で攻め立ててきた。

 対戦相手のステファノ・トラバグリア(イタリア)は、10年ほど前からアルゼンチンを拠点にし、クレーで最も戦績を残している。だが、もともとは速いサーフェスでの早い展開を得意とする選手だ。

 19歳の時にガラスで右手を切る大ケガを負い、その後遺症は今でも完全に消え去った訳ではない。一時はテニスをあきらめかけたという。

 トラバグリアはそれら試練を乗り越えて、10年に及ぶプロキャリアを送ってきた。しかしながら、まだグランドスラムの3回戦以上の経験はない。

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