錦織圭の新コーチは「ビースト」。復帰戦で参謀につけた決意と理由 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 そしてなにより錦織にとっては、少年時代からその活躍を近くで見てきたIMGアカデミーの大先輩。まだ何者でもなかったころの錦織とボールを打ち、プロの世界を身近に感じさせてくれた存在でもある。

 先にも触れたとおり、長身でビッグサーバーのミルヌイのプレースタイルは、錦織とは対局にあるように思われる。

 だが錦織は、ミルヌイのテニスに「自分と似たところがある」と言った。それはおそらくは、テニスという競技への解釈や哲学、そしてゲーム性の理解度や、解を得るためのアプローチ法にあるのだろう。

 実際に、錦織がミルヌイのコーチとしての資質に興味を抱いたキッカケは、IMGアカデミーの後輩である望月慎太郎への指導にあったという。望月は決して大柄ではないが、得意のネットプレーを引っさげ、昨年のウインブルドンジュニアを制した17歳。その望月に臨時コーチとして助言を与えていたのが、ミルヌイだった。

 望月や錦織のみならず、ミルヌイはIMGアカデミーに留学した日本人練習生のほとんどが「最初に練習してくれたトップ選手」として名を挙げる人物である。

◆「錦織圭、涙の棄権。マイアミの誓いは6カ月後、ニューヨークで叶った」はこちら>>>

 彼が異国の少年たちの孤独に敏感なのは、英語も話せぬままベラルーシから渡ってきた自身の少年時代の心細さに根ざしているのかもしれない。またその時、彼のことをなにかと気にかけて世話をしたのが、当時寮長を務めていた日本人の練習生だった。ミルヌイが日本人に親近感を覚えるのも、そのような経験と無縁ではないのだろう。

 そのミルヌイを参謀として1年ぶりの復帰戦を戦う錦織は、まるで所信表明であるかのように、立ち上がりから攻めに攻めた。

 対戦相手はミオミル・キツマノビッチ(セルビア)。ビッグサーブとベースラインからの強烈なストロークを武器とする21歳だ。

 だが、錦織はひるまない。早いタイミングでフォアを左右に打ち分けると、浮いたボールは迷わずボレーやスマッシュで叩く。いきなりの5ゲーム連取は、彼が目指す地点を真っ直ぐに指し示すようだった。

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