錦織圭、涙の棄権。「マイアミの誓い」は
6カ月後、ニューヨークで叶った

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO


 2014年9月、全米オープン準決勝----。

 それは錦織圭のこれまでのキャリアにおいて、最も幸福で輝いた瞬間のひとつである。

 そして、この大会後に世界8位へと至った彼は、手首のケガにより長期離脱を強いられる2017年8月までの約3年間、ただの一度もトップ10から落ちていない。その意味でも、あの日のニューヨークの勝利は間違いなく、錦織のターニングポイングだ。

 ただ、各々の選手が長いシーズンを戦い、上級者同士が幾度ものその足跡を交錯させるテニスでは、唐突に見える勝利にも必ず布石があり、突然に見える結末も重ねた必然の帰着点である。

 錦織の覚醒の時......それは全米オープンからさかのぼること6カ月、ニューヨークから約1700km離れた、マイアミで始まっていた。

 天井を縦横に走る空調パイプが小さな唸り声をあげる、やや薄暗い会見室のひな壇の上で、大会トーナメントディレクターと並んで座る錦織は、悄然とまつ毛を伏せていた。

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