負けても心は穏やか。大坂なおみが全豪OP前哨戦から持ち帰ったもの (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO



 第2セットに入っても、キープ合戦は続いていく。その規律についに綻びが生じたのは、ゲームカウント5−5で迎えたサービスゲームをプリスコバがダブルフォルトで落とした時だ。

 これで、勝敗は決するはずだった。だが、冒頭で触れたように、マッチポイントでの決断を大坂は悔い、その後のミスこそが真に試合の行方を決める分水嶺となる。

 試合時間は、2時間48分。勝者となったプリスコバの第一声は、「ここ最近で、最高の試合だった」であった。

 敗戦の約40分後......会見室に現れた大坂の表情は、意外なまでに穏やかだった。

 それは、振り返ってみればこの敗戦で、「もっとこうすればよかったと思う点が、ほとんどなかったから」だという。もちろん、マッチポイントでの選択肢に、異なる結末の幻影を見い出しはした。だが、それもあくまで結果論にすぎない。

 それ以上に大坂がこの試合、そしてトーナメント全体から持ち帰るのは、「すべてのポイントで全力を尽くした」というある種の充実感。そして、「小さな大会では結果が出せないという評価を覆し、どの大会もグランドスラムと同様に捉えることができるようになってきた」という手応えだ。

 どの大会にもグランドスラムと同様の価値を見いだせるということは、ひるがえれば、グランドスラムのみを特別視し、極度の重圧を覚えることもなくなる......ということでもあるだろう。

 この1年間で多くを経験し、とくにディフェンディングチャンピオンとして挑んだ全米オープンで「多くを学んだ」という彼女は、過去3大会のグランドスラムとは異なる心持ちで、今回の前哨戦を戦っているように見えた。

 実際に全豪オープンを迎えた時、どのような心境になるかは「初戦の直前になってみないとわからない」と彼女は言う。それでも、「そう見えないかもしれないけれど、けっこう成長できたのよ」と言って浮かべる笑顔には、何か大きなことを成し遂げそうな、柔らかな風格すら漂った。

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