少女に戻った大坂なおみ。
全米OPの「セリーナvsシャラポワ」に心躍る

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 それら切望の源泉にあったのは、「世界1位として。子どもたちのロールモデル(お手本)にならなくては......」という悲痛なまでの責任感と、「リーダーとして、女子テニス界を牽引しなくては......」という重圧。現に、全仏オープンの3回戦で敗れた時の大坂は、「私が負けたことで、女子テニスは誰が強いのかわからないと言われてしまう......」と、女王不在ゆえの混沌の責任を、すべてひとりで背負い込んだ。

 その彼女が今大会を迎えるにあたり、「今は、ランキングは気にしていない」と明言する。ディフェンディングチャンピオンの重圧について幾度となく問われても、そのたびに「今の私の関心事項は、1回戦のことだけ。その先や大会で優勝すること、タイトルを守ることなどは考えていない」と繰り返した。

「今は、楽しむことを考えている。今までも、楽しむことができた時こそが、いい結果が残せている時だから」

 それは、彼女がこの1年ほど恐ろしく濃密な時間に身を置くなかで、紆余曲折を経た末に辿り着いた絶対的な真理なのだろう。そしてニューヨークの街は、いつでも大坂に「ポジティブなエネルギー」を与えてくれる。

 体調面で気がかりなのは、約1週間前のシンシナティ大会で試合中に痛めたひざだが、サポーターこそ巻いているものの、この数日は会場で多くのファンが熱視線を送るなか、元気な姿を披露している。

「日に日によくなっているし、とくに今日はとてもよく動けていた。大会に向けて非常に前向きになれてきた」と明るい声で言ったのは、USオープン開幕を3日後に控えた金曜日のこと。その言葉に、誇張や嘘はなさそうだ。

 大会会場のUSTAナショナルテニスセンターは、5歳の頃に幼い大坂が姉とボールを打ち合った「始まりの地」である。正門の前にそびえる巨大な地球のオブジェも、世界の頂点に立つ日を夢見ながら、その周囲を走り回ったトレーニング場だ。

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