大坂なおみは勇気をもって混戦を制す。「速いサーブよりコース」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 4度目の対戦でも、やはりもつれこんだファイナルセットで先にチャンスを得たのは、またもシェイ。スライスや無回転ショットで大坂のリズムを崩すシェイが、第2ゲームで2連続ブレークポイントを掴んでいた。

 あとがないなかで危機に直面したその時、大坂が考えたのは、「サーブのスピードやコースを工夫しよう」ということである。

 自分が速いサーブを打ち込んでも......いや、むしろ速いサーブほど、シェイはカウンターでとらえ、鋭いリターンを返してくる。ならばスピードを緩め、今まで打っていないコースを狙うほうが有効だという仮説を立て、そして勇気をもって実戦した。結果、エースにはならなくとも、機先を制し、ラリー戦で優勢に立つ。

 さらには、4度のデュースの末にこのゲームをキープした時、大坂の目にはもうひとつ、はっきり見えていたものがあった。それは、頻度を増したトリッキーショットの背後にある、シェイの色濃い疲労である。

 相手の疲れを見て取り、「私はまだまだ走れる」との思いを強くした大坂は、危機を切り抜けた直後のゲームで勝負をかけた。フォアのリターンウィナーで引き寄せたチャンスを、打ち合いの末に掴み取る。最後は、ていねいにセンターに打ち込むサーブで相手のラケットを弾き、2時間29分の混戦にピリオドを打ち込んだ。

 ファンが溢れるすり鉢状のコート、疑問符とフラストレーションを伴ういくつかの判定、そしてトリッキーなシェイのプレー......。多くの不確定要素が絡む混戦を制したその要因を、大坂は「体力と精神力」と断言した。

 欧州の芝シーズンでは苦しい時期を過ごした大坂だが、北米ハードコートに戻ってからは、これで2週連続のベスト8入り。

 そんな彼女を、周囲は「得意のコートに戻り、再び好調時のフォームを取り戻した」とみなしがちだが、本人は「私は以前に戻りたいとは思わない。常に成長して、いい選手になりたいから」と、あくまで視線を前に向けた。

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