大坂なおみが目指す新たな自分。真剣と笑顔のバランスを模索している (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「どうしてそんなに笑っているんだ? もっと真剣にやらないか」

 第1セットをからくも手にした後のオンコートコーチングで、コーチのジェンキンスはハッパをかけた。

 大坂もコーチのその声を、納得し、真摯に受け止めたのだろう。第2セットの立ち上がりはサーブの入りもよく、引き締まった試合展開となった。

 だが、大坂に3連敗中のアリアクサンドラ・サスノビッチ(ベラルーシ)がドロップショットで揺さぶりをかけた時、大坂にミスが目立ちだす。終盤に5連続でゲームを落とした大坂が、第2セットは2-6で失った。

 真剣味と引き換えに覇気を失ったかのような大坂に、再び笑顔を与えたのは、客席の大半を占めた大坂のファンだろうか。

「レッツゴー、ナオミ!」

 第3セット開始と同時に声を揃えて叫んだ家族連れは、「他のファンにも気合いを入れようと思ってさ」と笑った。果たしてその声援が起爆剤となったか、会場のそこかしこから、大坂を後押しするエールが飛び始める。

 そうして熱を帯びたスタジアムの空気は、大坂の「テニスを楽しみたい」との思いにも火をつけた。

 第2セットで手を焼いた相手のドロップショットにも鋭い出足で反応し、自らのポイントへと変えていく。集中力と遊び心を適度なバランスで配合した大坂は、世界1位にふさわしいパフォーマンスでファイナルセットを支配した。

 試合後の大坂は、コートサイドのみならず、通路沿いにも鈴生りのファンが差し出す無数のボールやパンフレットに、丁寧にペンを走らせた。「一緒に写真を撮って!」と叫ぶ親子連れのスマホを受け取り、自らセルフィーのシャッターも押す。セキュリティが人払いをしてもなお、「ナオミー!」と叫び追いかけてくる子どもたちの求めに応じる姿は、ファンとの交流を純粋に楽しんでいるようだった。

 この半年ほど苦しい時期を過ごしている大坂ではあるが、彼女は過去を振り返り、「あの時に戻りたい、あの時の状況を再現したいと思ったことはない」と言う。だからこそ、「みんなが私のプレーを知り、誰もが私に対してはいいプレーをしてくる」という現状を受け止めたうえで、新たな自分の確立を目指している。

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