アンディ・マリーと英国民の確執。あれから13年...誰もが愛す存在に (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 待ち望まれた復帰戦となる男子ダブルスは、大会4日目のナンバー1コートで行なわれた。ペアを組むのは、ダブルスの名手ピエール=ウグ・エルベール(フランス)。最近はシングルスに専念し、ダブルス出場は控えていたが、今回はマリーのためにひと肌脱いだ形となった。

 コートに向かうマリーは、「ナーバスだった」ことを認めている。パートナーとの連係も手探り状態のなか、第1セットは失った。

 だが、第2セット以降は多くの選手が「天性の優れた感覚」と賞賛する柔らかなタッチで、多くのボレーを決めていく。第3セット終了時には照明を灯すために、今年からナンバー1コートに新設された開閉式の屋根が閉じた。

「屋根が閉まってからは、観客の声がより大きく聞こえて、さらにすばらしい雰囲気だった」

 閉ざされた空間で高まる熱のなか、マリーは1万人を越える観客の声を全身に浴び、復帰戦を逆転勝利で飾った。

 男子ダブルスは2回戦で敗れたマリーだが、ファンが一層楽しみにしていたのは、セリーナ・ウィリアムズ(アメリカ)との混合ダブルスだったかもしれない。両者は、2016年ウインブルドンの男女シングルス優勝者。夢のペア誕生は、それだけで大きな話題となった。

 セリーナ(Serena)の名と、マリーが持つナイトの敬称「サー(Sir)」をかけて「SerAndy」の愛称で呼ばれたふたりの最初の試合は、夕闇が迫るセンターコートに組まれた。

 スタンディングオベーションでふたりを迎えた観客は、転倒するほどに必死なセリーナの姿に感激し、時速130マイルのマリーのサーブに熱狂する。マリーのリターンウイナーで勝利が決まった時、まだ芝が多く残る大会6日目のセンターコートは、暖かな拍手と声援で英雄の帰還を祝福した。

 その混合ダブルスも3回戦で敗れたことで、マリーの復活のウインブルドンは全日程を終了する。気の早いメディアは「いつシングルスに復帰するのか?」と問うが、マリーはいつもの無機質な声で応じた。

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