勝ち上がるコツを掴んだ錦織圭。
残した結果は同じも内実は大違いだ

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 このネットでの高いポイント獲得率は、単に、芝だからというだけではない。最近の錦織は、試合時間を短縮し、体力を温存するためにも、プレースタイルを変えつつある。

「目指すのは攻撃的なテニス。前に出るのを増やしたい」と言うのは、クレーシーズンを戦う5月の時点で口にしていた言葉だ。

 その時には、「やりたい思いはあるけども、自分のテニスの調子だったり、自信だったり、コートサーフェスや風なども関係してくるので、やりたくてもできない期間はある」との葛藤も抱いていた。それでも、目指す地点を「大きな目標があるので、揺らぎはない」と断言し、ネットプレーの優位性が低いクレーでも、挑戦と模索を繰り返す。

その意志と決断が、今回、芝の上でひとつの実を結んだ。

 今大会は最終的に、準々決勝でロジャー・フェデラー(スイス)に敗れた錦織だが、これは今季のグランドスラム準々決勝の試合のなかで、もっとも勝利の可能性を漂わせた試合だった。

 1月の全豪オープンでは、3度のフルセットの死闘を戦い抜いた帰結として、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)に棄権を強いられて敗れる。先の全仏オープンでは、やはりベスト8にたどり着くまでに体力を使い果たし、ラファエル・ナダル(スペイン)相手に勝機を見出すには至らなかった。

 だが、今回のウインブルドンは違う。立ち上がりでいきなり2本のリターンエースを叩き込み、驚異のスタートダッシュで第1セットを奪い去った。以降は、芝の帝王に苦しい戦いを強いられるも、体力のタンクを満たした錦織のテニスがいかに魅力的であるかを、あらためて知らしめた試合でもあった。

 また先ほど、「今季のグランドスラム準々決勝の試合のなかで」とさらりと書いたが、錦織は今季のみならず、昨年のウインブルドンから5大会連続でベスト8以上(昨年の全米オープンはベスト4)に勝ち上がっている。

 この数字がいかに偉大かは、他の選手の動向と比較した時、一層鮮やかな光を放つだろう。何しろ、錦織と同様に5大会連続でベスト8以上の戦績を残しているのは、他にはわずかにジョコビッチとナダルのみ。あのフェデラーですら、昨年の全米と今年の全豪では、4回戦で敗れている。

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