精根尽き果てた錦織圭。ペールとの完全アウェーの死闘は孤独だった (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

「大声援を受け、ローラン・ギャロスのベスト8に勝ち進むということは、僕にとって......すべてのフランス人選手にとって、ものすごく大きな意味を持つんだ」

 真摯な表情で、試合後の彼は言う。

「この大会で4回戦に来たのは、僕は初めて。5−3のサービスゲームの時には、これに勝てば準々決勝で(ラファエル・)ナダルと対戦できるということを、考えずにはいられなかった」

 キャリア最大の舞台へのやや先走った思いが、ベテランに差しかかった30歳の手もとを狂わしていた。

「最後のほうは、気力だけで戦っていた状態」だった錦織に、相手の動揺を見る余裕はなかったかもしれない。それでも、3−5とリードされたゲームの最初のポイントで決めたハーフボレーが、大きな意味を持つことは感じていた。

 ポイントで先行したことが思い切りのよいプレーを可能にし、鋭いリターンでブレーク奪取。そこからの錦織はファーストサービスの確率も上げ、落胆したペールを一気に畳みかける。ゲームカウント5−5の相手ゲームをブレークすると、続く自らのサービスゲームでは絶妙なロブを、そして最後はサービスウイナーを決め、2日にわたる死闘に終止符を打った。

 その瞬間、満員に膨れ上がったコートスザンヌ・ランランに立ち込めたのは、落胆と失意のため息である。

 まばらな拍手と雨を背に受け、孤独な戦いを制した彼は、精根尽き果てたようにコート中央にしゃがみこむと、しばらく身じろぎもしなかった。

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